同じ人でも、ある夜はぐっすり深く眠れたように感じ、別の夜は浅い眠りが続いたように感じることがあります。また、睡眠検査で脳波を測ると、ノンレム睡眠の深さや各段階の割合には、人によってかなり違いがあります。
こうした差が生まれるのは、ノンレム睡眠が毎晩まったく同じ量・同じ深さで現れる固定的な状態ではないためです。起きていた時間の長さ、前日までの睡眠不足、年齢、昼寝、睡眠をとる時刻、遺伝的な特徴などが、ノンレム睡眠の深さを示す脳波活動に影響します。
特に重要なのが「睡眠圧」です。長く起きているほど睡眠圧は高まり、その後の睡眠では深いノンレム睡眠に特徴的な徐波活動が強くなります。一方、昼寝をしたり十分に睡眠をとったりすると睡眠圧が下がり、次の睡眠で深いノンレム睡眠が少なくなることがあります。
ノンレム睡眠は一種類の眠りではない
人の睡眠は、大きくノンレム睡眠とレム睡眠に分けられます。現在の睡眠段階判定では、ノンレム睡眠は浅いN1、より安定したN2、最も深いN3という段階に分けられます。
N3では、脳波にゆっくり大きな波が目立つようになります。この活動は「徐波活動」と呼ばれ、深いノンレム睡眠や睡眠圧を考えるときの重要な指標です。厚生労働省のe-ヘルスネットでも、ノンレム睡眠は睡眠の深さによって分かれ、深い段階では高振幅の徐波が現れると説明されています。
夜の睡眠では、眠り始めの前半ほど深いノンレム睡眠が多く、後半に進むほど徐波は少なくなる傾向があります。これは、眠っている間に睡眠圧が徐々に解消されるためです。
なぜ同じ人でもノンレム睡眠の深さが日によって違うの?
1.起きていた時間が長いほど睡眠圧が高くなる
ノンレム睡眠、とくに深いN3と徐波活動は、直前までの覚醒時間に強く影響されます。長時間起きていると睡眠圧が高まり、その後の睡眠では徐波活動が強くなります。
睡眠研究では、睡眠不足のあとに回復睡眠をとると、通常より深いノンレム睡眠や強い徐波活動が現れやすいことが繰り返し確認されています。逆に、十分な睡眠をとったあとや昼寝をしたあとでは、次の睡眠時点で睡眠圧が低くなっているため、徐波睡眠が減ることがあります。
つまり深いノンレム睡眠の量は、「その人がもともと深く眠る体質か」だけでなく、その夜までにどれだけ睡眠の必要性がたまっていたかでも変わります。
2.前日の睡眠だけでなく数日間の睡眠履歴が影響する
睡眠圧は一晩ごとに完全にリセットされるとは限りません。短い睡眠が続けば睡眠不足が積み重なり、その後の睡眠構造に影響することがあります。
たとえば平日に睡眠時間が不足し、休日に長く眠った場合、休日の最初の夜と、十分に休んだあとの夜とでは、深いノンレム睡眠の現れ方が同じとは限りません。睡眠はその一晩だけではなく、それ以前の睡眠・覚醒の履歴を反映しています。
3.昼寝でも夜の深い睡眠は変わる
昼寝は睡眠圧を一部下げます。そのため、長い昼寝や遅い時間の昼寝をした場合、夜の睡眠時点で睡眠圧が普段より低くなり、寝つきや深いノンレム睡眠に影響することがあります。
これは「昼寝をすると必ず睡眠の質が悪くなる」という意味ではありません。短い昼寝では影響が小さい場合もあり、昼寝をした時刻、長さ、前夜の睡眠不足の程度などによって変わります。
なぜ人によって深いノンレム睡眠の量が違うの?
1.年齢による違いが大きい
深いノンレム睡眠は年齢によって大きく変化します。子どもや若年者では徐波睡眠が多く、成人後は加齢とともに減少する傾向があります。
厚生労働省のe-ヘルスネットでも、加齢とともに徐波睡眠が減少すると説明されています。加齢研究のレビューでも、若い成人と比べて高齢者では徐波活動が弱まり、浅いノンレム睡眠や夜間覚醒が増えやすいことが報告されています。
ただし、同じ年齢でも深い睡眠の量には大きな個人差があります。「高齢だから深い睡眠がほとんどない」「若いから必ず深く眠れる」と一律には言えません。
2.睡眠脳波にはその人らしい特徴がある
睡眠脳波を繰り返し測る研究では、同じ人の脳波パターンは別の日にも比較的よく再現される一方、人と人の間では大きく異なることが示されています。
特にノンレム睡眠のデルタ帯域の活動、つまり徐波活動は、個人内では比較的安定しながら、個人間では差が大きい指標の一つです。このことから、ノンレム睡眠の深さには、その日の睡眠圧だけでなく「その人らしい」生理的な特徴も関係すると考えられています。
3.遺伝的な要因も関係する
睡眠の深さや睡眠脳波の特徴には、遺伝的な要因も関与します。睡眠と遺伝の研究では、睡眠脳波には高い個人内安定性があり、その一部に遺伝的背景があることが示されています。
特定の遺伝子多型と徐波睡眠や睡眠圧への反応との関連を示す研究もあります。ただし、一般の人の深い睡眠の量を一つの遺伝子だけで説明することはできません。多数の遺伝要因と、年齢や生活環境などが組み合わさって個人差を作っています。
ノンレム睡眠の違いに影響する主な条件
| 条件 | 起こりやすい変化 |
|---|---|
| 長時間の覚醒 | 睡眠圧が高まり、睡眠前半の徐波活動が強くなりやすい |
| 睡眠不足 | 回復睡眠で深いノンレム睡眠が増えることがある |
| 昼寝 | 睡眠圧が下がり、その後の深いノンレム睡眠が減ることがある |
| 加齢 | 徐波睡眠や徐波活動が減少しやすい |
| 個人の生理的特徴 | 睡眠脳波や徐波活動には比較的安定した個人差がある |
| 睡眠の分断 | 睡眠段階の連続性が崩れ、深い睡眠を維持しにくくなることがある |
運動や頭を使った日の方が深く眠れるの?
起きている間の活動量は、その後の睡眠に影響することがあります。e-ヘルスネットでは、入眠前までの覚醒時間だけでなく、覚醒中の身体運動量や精神的な負荷が増えるとノンレム睡眠が深くなることがあると説明されています。
ただし、「たくさん運動すれば必ずN3が何分増える」といった単純な対応ではありません。運動の強度や時刻、本人の体力、睡眠不足の程度などによって影響は異なります。
脳の徐波活動には局所的な性質もあり、起きている間によく使った脳領域で、その後の睡眠中に徐波活動が強まることを示す研究もあります。睡眠は全脳が完全に均一な状態になるのではなく、日中の活動履歴も反映する動的な状態と考えられています。
深いノンレム睡眠が多ければ多いほど良いの?
必ずしもそうではありません。深いノンレム睡眠は正常な睡眠の重要な一部ですが、健康な睡眠はN3だけで成り立つわけではありません。浅いノンレム睡眠、レム睡眠、短い覚醒を含む複数の状態が夜を通して周期的に現れます。
睡眠不足のあとには深い睡眠が増えることがありますが、これは「普段より睡眠の必要性が高い」ことへの反応でもあります。したがって、深い睡眠が多いという数字だけを見て、その夜の睡眠が必ず優れていたと判断することはできません。
反対に、年齢とともに深い睡眠が減っても、それだけで病気とは言えません。日中の眠気、睡眠の連続性、睡眠時間、本人の休養感などを含めて考える必要があります。
「ぐっすり眠った感覚」とN3の量は同じ?
主観的な「よく眠れた」という感覚と、睡眠検査で測定したN3の時間は完全には一致しません。睡眠の満足感には、途中で目覚めた回数、睡眠時間、起床時の体調、ストレスなども影響します。
そのため、「深い睡眠が少ないと表示されたから今日は回復できていない」と一晩の数値だけで判断するのは適切ではありません。特に家庭用のウェアラブル機器は、脳波を直接測る睡眠ポリグラフ検査とは異なり、心拍や体動などから睡眠段階を推定している製品が一般的です。
睡眠アプリの「深い睡眠」は信じていいの?
睡眠アプリやスマートウォッチは、毎日の睡眠時間や生活リズムを見る手がかりにはなります。しかし、医療機関で行う睡眠ポリグラフ検査のように脳波・眼球運動・筋活動を測定して睡眠段階を判定しているわけではない機器も多くあります。
そのため、表示される「深い睡眠○分」は機器独自の推定値であり、N3を正確に測定した値と同じとは限りません。日ごとの傾向を見る参考にはなっても、一晩だけの値で病気や睡眠の質を診断することはできません。
ノンレム睡眠の違いで注意したい状態
ノンレム睡眠の個人差そのものは自然ですが、次のような症状が続く場合は、単なる「深い睡眠の個人差」ではなく睡眠障害などが関係している可能性があります。
- 十分な時間眠っても強い日中の眠気が続く
- 大きないびきや睡眠中の呼吸停止を指摘される
- 何度も夜中に目が覚め、日中の生活に支障がある
- 脚の不快感や体の痛みで睡眠が繰り返し中断される
- 睡眠中に歩き回る、激しく動くなどで安全上の問題が起きる
睡眠段階の数字だけでは原因を判断できません。生活への支障がある場合は、症状全体について医療機関に相談することが大切です。
よくある疑問
毎晩N3の時間は同じなの?
同じではありません。起きていた時間、睡眠不足、昼寝、年齢、途中覚醒などによって変動します。
睡眠不足の翌日は必ず深く眠るの?
睡眠不足後は睡眠圧が高まり、徐波活動が強くなる傾向があります。ただし、体内時計、睡眠時刻、環境、病気など他の条件も影響するため、全員が同じ変化を示すわけではありません。
若い人の方が深い睡眠が多いの?
集団としては、若年者の方が高齢者より徐波睡眠が多い傾向があります。ただし同年代でも個人差があります。
深い睡眠を増やすことだけを目標にすればいい?
いいえ。睡眠は複数の睡眠段階が組み合わさって成り立ちます。深い睡眠だけでなく、十分な総睡眠時間、睡眠の連続性、日中の状態を見ることが重要です。
まとめ
ノンレム睡眠の深さが人や日によって違うのは、睡眠圧、直前までの覚醒時間、前日までの睡眠履歴、昼寝、年齢、遺伝的な特徴などが重なって、徐波活動の強さや深いN3の量を変えるためです。
特に徐波活動は睡眠恒常性を反映する重要な指標で、長く起きて睡眠圧が高まると強くなり、睡眠が進むにつれて弱くなります。一方で、その強さには同年代でも大きな個人差があり、同じ人では比較的安定した特徴もみられます。
そのため、「深い睡眠は何分なら正常」という一つの数字だけで良し悪しを判断することはできません。睡眠全体の長さや連続性、年齢、日中の眠気や休養感まで含めて考えることが大切です。
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参考資料
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「ノンレム睡眠」
- Regulation and Functional Correlates of Slow Wave Sleep
- Genetics of the human circadian clock and sleep homeostat
- Inter-individual Differences in the Dynamics of Sleep Homeostasis

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