金属棒を自由に置いて温めれば、棒は少し長くなります。ところが両端を動かないように固定したまま温めると、棒は伸びたくても伸びられません。このとき棒の内部には圧縮応力が生じます。逆に、固定された棒を冷やして縮もうとするのを妨げると、引張応力が生じます。
結論からいうと、熱膨張を拘束すると熱応力が生じるのは、温度変化によって本来生じるはずの自由な熱ひずみを、周囲の構造や別の材料が妨げるからです。変形できない分が弾性ひずみとして材料内部に残り、それがフックの法則を通じて応力になります。
単純な一軸棒を完全に拘束し、材料が弾性範囲にあると仮定すれば、熱応力の大きさは概ね、
σ = EαΔT
で表せます。Eはヤング率、αは線膨張係数、ΔTは温度変化です。
自由に膨張できるなら熱応力は生じない
長さLの棒をΔTだけ温めたとき、自由に伸びられるなら長さ変化は、
ΔL = αLΔT
です。
このとき棒には熱ひずみ、
εth = αΔT
が生じます。
しかし外から変形を妨げる力がなければ、棒はそのまま伸びるだけなので、理想化すれば機械的な応力は生じません。
OpenStaxも、熱膨張そのものではなく、熱膨張や熱収縮が拘束されたときに熱応力が生じると説明しています。
完全拘束すると何が起きるのか
棒の両端を剛体壁へ固定し、全長が変わらないようにします。
温度上昇によって棒はαΔTだけ伸びようとしますが、実際の全ひずみは0です。
全ひずみは、熱ひずみと弾性ひずみの和として、
εtotal = εth + εe
と考えられます。
完全拘束ならεtotal=0なので、
εe = -αΔT
となります。
つまり、温度上昇で生じようとする正の熱ひずみを打ち消すために、同じ大きさの圧縮弾性ひずみが生じます。
なぜσ=EαΔTになるのか
弾性範囲では、応力σと弾性ひずみεeの間にフックの法則、
σ = Eεe
が成り立ちます。
完全拘束でεe=-αΔTなので、
σ = -EαΔT
となります。
温度上昇なら圧縮応力、温度低下なら引張応力です。符号を無視して大きさだけを見ると、
|σ| = Eα|ΔT|
です。
つまり、熱膨張係数が大きいほど、ヤング率が大きいほど、温度変化が大きいほど、完全拘束時の熱応力も大きくなります。
柔らかい材料と硬い材料ではなぜ熱応力が違うのか
同じαとΔTでも、ヤング率Eが大きい材料ほど、同じ弾性ひずみを生じさせるために大きな応力が必要です。
そのため、熱膨張係数だけを見ても熱応力の大きさは決まりません。
OpenStaxも、熱応力が膨張係数だけでなく弾性率にも比例することを示しています。
低膨張材料でも非常に硬ければ、拘束条件によって無視できない熱応力が生じる場合があります。
完全拘束でなければ応力は小さくなる
実際の構造物は、完全に動かない剛体へ固定されているとは限りません。
支持部が少し変形したり、接合部が滑ったり、隣接部材も一緒に伸びたりすれば、熱ひずみの一部は実際の変形として吸収されます。
その結果、材料内部に残る弾性ひずみは小さくなり、熱応力も完全拘束のEαΔTより小さくなります。
このため実際の熱応力解析では、材料物性だけでなく「どれくらい拘束されているか」が重要です。
内部拘束と外部拘束は何が違うのか
拘束には大きく、外部拘束と内部拘束があります。
外部拘束は、基礎、支持部、ボルト、隣接部材などが変形を妨げる場合です。
内部拘束は、一つの物体の中に温度差があり、場所ごとに膨張量が違うことで互いに変形を妨げる場合です。
たとえば厚い板の表面だけを急激に加熱すると、表面は先に膨張しようとしますが、まだ冷たい内部がその変形を拘束します。
このため外部から固定されていなくても、物体内部に熱応力が生じます。
温度勾配があるとなぜ熱応力が生じるのか
物体全体が同じ温度だけ上がり、完全に自由に膨張できるなら、熱応力は生じません。
しかし表面と内部で温度が違うと、熱ひずみαΔTも場所ごとに異なります。
高温部は大きく伸びようとし、低温部はそれほど伸びません。
ところが一つの連続した物体なので、各部分は勝手に別々の長さへ変形できません。
その変形の不一致を調整するために内部応力が生じます。
J-STAGEの温度応力研究でも、温度分布と変形拘束の組み合わせによってコンクリート舗装やマスコンクリートに温度応力が生じることが扱われています。
急加熱・急冷で応力が大きくなりやすいのはなぜか
急激に温度を変えると、熱伝導によって内部まで温度が均一になる前に、表面だけが先に膨張・収縮します。
そのため大きな温度勾配ができ、内部拘束が強くなります。
ゆっくり加熱・冷却すれば、温度が内部へ広がる時間があるため、温度差が小さくなり、熱応力も小さくできる場合があります。
この考え方は、ガラスやセラミックスの熱衝撃、炉材、厚肉金属部品の加熱・冷却で重要です。
なぜ異なる材料を接合すると熱応力が生じやすいのか
異なる材料は、熱膨張係数αが同じとは限りません。
たとえば材料AとBを強く接着して温度を上げると、Aは大きく伸びようとし、Bはあまり伸びようとしない場合があります。
しかし接着されているため、界面では同じ変形へ近づけなければなりません。
その結果、膨張の大きい材料には圧縮側、小さい材料には引張側の応力が生じることがあります。
NISTも、異種材料の熱膨張係数の不一致が温度変化時の応力源になることを、金属間化合物やはんだ材料の機械特性に関する資料で説明しています。
バイメタルが曲がるのも熱膨張差が原因
熱膨張係数の異なる二枚の金属を貼り合わせたバイメタルを温めると、膨張率の大きい側がより長くなろうとします。
しかし二枚は接合されているため、長さの差をそのまま作れません。
そこで全体が曲がることで変形の不一致を吸収します。
曲がることが許されれば、完全拘束より応力を小さくできます。
つまり構造が変形できる自由度も熱応力の大きさを左右します。
電子部品で熱膨張係数差が問題になるのはなぜか
半導体チップ、はんだ、基板、封止樹脂は、それぞれ異なる熱膨張係数を持ちます。
電源のON/OFFで温度が上下すると、各材料は異なる割合で伸び縮みしようとします。
しかし接合されているため、界面に繰り返しせん断応力や引張・圧縮応力が生じます。
この応力が繰り返されると、はんだ疲労、界面剥離、亀裂などの原因になることがあります。
熱疲労とは何か
一度の温度変化で破壊しなくても、加熱と冷却を何度も繰り返すと、熱応力も繰り返し発生します。
この繰り返しによって材料へ疲労損傷が蓄積する現象を熱疲労と呼びます。
特に温度差が大きい、拘束が強い、応力集中部がある、高温で材料強度が低下する、といった条件では損傷が進みやすくなります。
熱応力は必ず弾性式で求められるのか
いいえ。
σ=EαΔTは、単純な一軸完全拘束、均一温度変化、線形弾性、物性一定といった条件での近似です。
応力が降伏強さを超えれば塑性変形が起こり、応力は単純にEαΔTまで増えません。
高温ではクリープによって時間とともに応力が緩和することもあります。
コンクリートでは若材齢時のクリープや弾性率変化が温度応力へ大きく影響します。J-STAGEの温度応力シミュレーション研究でも、拘束条件と時間依存の力学特性が重要とされています。
応力緩和とは何か
一定の変形を与えたまま保持しても、高温では材料が時間とともにクリープ変形し、弾性ひずみの一部が減ることがあります。
その結果、拘束量が同じでも応力が徐々に低下します。
これが応力緩和です。
高温配管、ボルト締結部、炉内部材などでは、瞬間的な熱応力だけでなく時間依存の緩和も考える必要があります。
橋に伸縮継手があるのはなぜか
長い橋桁は、季節や日射による温度変化で数cm以上伸び縮みすることがあります。
もし両端を完全に固定すると、自由熱ひずみを妨げる大きな熱応力が生じます。
そこで支承や伸縮継手を設け、必要な変位を許容します。
これは熱応力を「材料を強くして耐える」のではなく、「変形を許して発生そのものを減らす」設計です。
配管にループや曲がりを設けるのはなぜか
高温流体を流す長い配管も、運転時には熱膨張します。
直線配管を両端で強固に固定すると大きな軸方向熱応力が生じます。
そこで配管にU字ループや曲がりを設け、曲げ変形によって伸びを吸収します。
伸縮継手を用いる場合もあります。
ここでも重要なのは、拘束を弱めて自由膨張に近づけることです。
コンクリートで温度ひび割れが起こるのはなぜか
マスコンクリートでは、セメントの水和熱で内部温度が上がり、その後冷却します。
冷却時にはコンクリートは収縮しようとしますが、基礎や既設コンクリート、内部の温度差などがその収縮を拘束します。
すると引張熱応力が生じます。
コンクリートは圧縮には強い一方、引張には比較的弱いため、引張応力が強度を上回ると温度ひび割れが生じることがあります。
J-STAGEのマスコンクリート研究では、拘束と温度変化を組み合わせた温度応力・ひび割れ評価が重要な課題として扱われています。
温度が均一でも異材接合では応力が生じる
温度勾配がなく、部品全体が同じ温度変化を受けても、異なる熱膨張係数の材料が接合されていれば熱応力は生じます。
これは各材料の自由熱ひずみαΔTが異なるためです。
つまり熱応力には、温度分布の不均一による内部拘束と、材料差・支持条件による外部または相互拘束の両方があります。
熱応力を小さくするにはどうすればよいのか
基本的な方法は、自由膨張・自由収縮をできるだけ許すことです。
伸縮継手、すべり支承、配管ループ、柔軟な接合層などを使えば拘束を弱められます。
また急激な温度変化を避け、温度勾配を小さくすることも有効です。
異材接合では熱膨張係数の近い材料を選ぶ、柔らかい中間層を入れる、接合形状を工夫する、といった方法があります。
まとめ
熱膨張を拘束すると熱応力が生じるのは、本来自由に生じるはずの熱ひずみαΔTが妨げられ、その分が弾性ひずみとして材料内部に残るからです。
単純な一軸完全拘束・線形弾性条件では、熱応力の大きさは概ね、
|σ| = Eα|ΔT|
で表せます。
ただし実際の構造では、拘束の強さ、温度勾配、材料の組み合わせ、塑性、クリープ、形状などによって応力は変わります。
自由に膨張できるなら熱応力はほとんど生じません。熱応力の本質は「熱膨張そのもの」ではなく、熱膨張しようとする変形と、それを妨げる拘束の組み合わせにあります。
参考資料
- 日本建築学会技術報告集「温度応力シミュレーション装置を用いた若材齢コンクリートの水和熱制御と応力―ひずみ挙動の実験的検討」
- 舗装工学論文集「日温度変化による空港コンクリート舗装の温度応力に関する研究」
- NIST “Physical and Mechanical Properties of Intermetallic Compounds Commonly Found in Solders”
- OpenStax University Physics Volume 2 “Thermal Expansion”

コメント