なぜ化学反応の燃焼速度は温度や当量比で変わるのか?

同じ燃料でも、冷たい混合気より予熱された混合気のほうが速く燃えやすく、燃料と空気の比率を変えると火炎の進む速さも変わります。さらに、圧力や酸素濃度、燃料の種類が違えば、燃焼速度は同じにはなりません。

この違いが生じるのは、燃焼が化学反応の速さと、熱・活性種が未燃混合気へ伝わる速さの両方で決まるからです。温度を上げると反応速度定数が大きくなり、当量比を変えると燃料と酸素の量的バランス、火炎温度、反応中間体の濃度が変わります。

この記事では、燃焼するかどうかではなく、火炎がどれくらい速く未燃混合気へ伝わるかに焦点を当てます。温度、当量比、酸素濃度、圧力、燃料種、熱拡散、物質拡散、火炎伸長から、燃焼速度が変わる理由を解説します。

目次

燃焼速度とは火炎が未燃混合気へ進む速さ

予混合燃焼では、燃料と酸化剤があらかじめ混ざっています。着火すると、反応帯で発生した熱や活性化学種が未燃側へ伝わり、次の領域を反応可能な状態へします。

このとき、静止した未燃混合気に対して火炎が進む速度を層流燃焼速度と呼びます。

NISTでは、密閉球形容器の圧力履歴から火炎半径や未燃・既燃ガス温度を求め、層流燃焼速度を評価する方法が用いられています。

燃焼速度は「どれだけ熱を出すか」とは別の量で、同じ発熱量をもつ燃料でも火炎伝播速度が同じとは限りません。

温度が上がると燃焼速度が大きくなりやすい

燃焼反応も化学反応なので、温度が上がると反応速度定数は一般に大きくなります。

反応速度の温度依存性はArrhenius型の関係で説明でき、温度が高くなるほど活性化障壁を越えられる分子の割合が増えます。

その結果、同じ燃料・同じ当量比でも、未燃混合気を予熱すると火炎内の反応が速くなり、火炎が次の未燃領域へ進みやすくなります。

日本燃焼学会の研究でも、予熱温度を上げることで、より希薄・低酸素の条件まで火炎を維持できる範囲が広がることが示されています。

予熱温度が高いと反応開始までの時間が短くなる

未燃混合気が低温の場合、火炎前方の混合気を反応温度まで加熱するために多くの熱を供給する必要があります。

一方、あらかじめ高温にしておけば、必要な温度差が小さくなります。そのため火炎から未燃側へ伝わる熱によって、より短い時間で反応可能な状態へ到達できます。

この効果が、化学反応速度定数の増加と重なって、燃焼速度を高めます。

当量比は燃料と酸素の量的バランスを表す

予混合燃焼では、燃料と空気の比率を表す代表的な指標として当量比φを使います。

理論混合比より燃料が少ない状態を希薄、燃料が多い状態を過濃と呼びます。

当量比を変えると、燃焼反応に参加できる燃料・酸素の濃度、断熱火炎温度、ラジカル濃度が変化します。

そのため、層流燃焼速度は当量比に対して一定ではなく、ある範囲で最大となり、希薄すぎても過濃すぎても低下します。

希薄すぎると燃焼速度が低下する

希薄側では燃料分子が少ないため、火炎中での熱発生量や反応中間体の生成量が小さくなります。

その結果、火炎前方を加熱する能力が弱くなり、火炎伝播速度が低下します。

さらに希薄化すると、火炎で生じた熱が周囲へ逃げる量に対して発熱が不足し、火炎を維持できなくなります。

日本燃焼学会の高温予熱火炎研究でも、予混合気温度が高いほど希薄消炎限界が低当量比側へ広がることが示されています。

過濃すぎても燃焼速度は低下する

燃料が多すぎる過濃側では、燃料を完全に反応させるための酸素が不足します。

そのため、燃料濃度を増やしても反応速度が無限に上がるわけではありません。むしろ酸素不足によって反応経路が変わり、火炎温度やラジカル濃度が低下して燃焼速度が小さくなる場合があります。

つまり燃焼速度は、燃料量だけでなく燃料と酸素の組み合わせで決まります。

燃焼速度が最大になる当量比は燃料ごとに違う

層流燃焼速度と当量比の関係は、燃料の種類によって異なります。

水素、メタン、プロパンでは、分子構造、反応機構、熱拡散率、主要ラジカルの生成過程が違います。

日本燃焼学会誌では、水素・メタン・プロパンについて、層流燃焼速度を当量比の関数として扱うモデルが示されています。

したがって「理論混合比なら必ず最速」とは限らず、燃料によって最大速度を示す当量比が異なることがあります。

酸素濃度が低いと燃焼速度は低下しやすい

空気を窒素や水蒸気で希釈すると、酸素濃度が下がります。

酸素分子の濃度が低くなると、酸化反応の機会が減るだけでなく、混合気全体の熱容量や火炎温度も変化します。

日本燃焼学会の研究では、同じ予熱温度・燃料濃度なら、酸素濃度の低下に伴って層流燃焼速度が低下する計算結果が示されています。

このため、酸素濃度は当量比とは別に燃焼速度を左右する条件です。

圧力が上がると燃焼速度が下がる燃料も多い

圧力を上げると気体分子の衝突頻度は増えますが、層流燃焼速度が必ず上がるわけではありません。

燃焼反応では、連鎖分岐・連鎖停止反応、三体反応、拡散係数なども圧力に依存します。

そのためメタンや多くの炭化水素では、一定の温度・当量比の範囲で圧力上昇に伴って層流燃焼速度が低下することがあります。

NISTの燃焼速度測定でも、初期圧力・温度の違いを含めて層流燃焼速度を評価しています。

圧力の影響は化学反応と拡散の両方から生じる

圧力が高くなると分子の平均自由行程が短くなり、物質拡散係数は一般に小さくなります。

同時に、反応機構の中では三体衝突を必要とする反応やラジカル消失過程の重要性が変わります。

燃焼速度は「化学反応の速さ」と「熱・活性種が火炎前方へ運ばれる速さ」のバランスなので、圧力変化の結果も単純な衝突頻度だけでは説明できません。

水素は拡散が速いため燃焼速度が大きくなりやすい

水素は分子量が小さく、空気中での拡散が速い燃料です。

また水素酸化反応は高速な連鎖反応を含むため、多くの炭化水素より高い層流燃焼速度を示します。

燃料の種類による速度差は、単に発熱量の違いではなく、反応機構と分子拡散特性の違いから生じます。

熱拡散と物質拡散の比も火炎速度へ影響する

火炎では、熱が未燃側へ伝わる一方、燃料や酸素、ラジカルも拡散します。

熱の拡散と物質の拡散の相対関係はLewis数で表されます。

Lewis数が1から大きく外れる燃料では、火炎伸長や曲率の影響を受けやすく、見かけの燃焼速度が変化することがあります。

特に水素のように物質拡散が速い燃料では、希薄火炎で選択拡散の影響が大きくなります。

火炎伸長があると測定される火炎速度が変わる

球状火炎や対向流火炎では、火炎面が伸びたり曲がったりします。

火炎面積が時間とともに変わると、熱・物質拡散のバランスも変化し、観測される伝播速度は伸長のない層流燃焼速度と一致しない場合があります。

そのため正確な燃焼速度測定では、火炎伸長の影響を補正して、基準となる層流燃焼速度を求めます。

乱流燃焼速度は層流燃焼速度とは別に考える

実際のエンジンやバーナーでは、流れが乱れていることが多くあります。

乱流によって火炎面がしわ状に変形すると、反応できる火炎面積が増え、全体として火炎が速く進む場合があります。

このとき観測される乱流燃焼速度は、層流燃焼速度だけでなく乱流強度、渦の大きさ、火炎厚さなどにも依存します。

したがって、同じ燃料・同じ当量比でも、静かな混合気と乱流中では燃焼速度の意味が異なります。

火炎温度が高いほど速い傾向はあるが一対一ではない

高い火炎温度では反応速度定数が大きくなりやすいため、燃焼速度も大きくなる傾向があります。

しかし燃焼速度は火炎温度だけでは決まりません。水素のように拡散が速い燃料、ラジカル反応が速い燃料では、同じ程度の火炎温度でも異なる燃焼速度を示します。

また希釈ガスの種類が変われば、熱伝導率や比熱も変化します。

したがって火炎温度は重要ですが、燃焼速度を決める唯一の指標ではありません。

予熱すると希薄限界が広がる理由

希薄混合気では発熱量が小さく、火炎から周囲への熱損失に負けやすくなります。

予熱すると未燃混合気がすでに高いエネルギー状態にあるため、反応開始に必要な追加加熱量が減ります。

その結果、低燃料濃度でも反応を維持しやすくなり、希薄限界が広がります。

日本燃焼学会の実験でも、予混合気温度の上昇に伴い、低当量比・低酸素条件まで火炎を維持できる範囲が広がっています。

着火のしやすさと燃焼速度は同じではない

着火は、最初の反応領域を作れるかどうかという問題です。

一方、燃焼速度は、いったん成立した火炎が未燃混合気へどれだけ速く伝播するかを表します。

着火エネルギーが小さい燃料でも燃焼速度が必ず大きいわけではなく、逆も同様です。

燃焼特性を比較するときは、着火遅れ、燃焼限界、燃焼速度を分けて考える必要があります。

燃焼速度を比較するときにそろえる条件

二つの燃焼速度を比較するときは、少なくとも次の条件を確認する必要があります。

  • 燃料の種類・組成
  • 当量比
  • 酸素濃度
  • 初期温度
  • 初期圧力
  • 希釈ガスの種類
  • 火炎伸長・曲率
  • 層流か乱流か
  • 測定方法

条件をそろえなければ、速度差が温度の影響なのか、当量比なのか、圧力や燃料種の違いなのかを切り分けられません。

なぜ化学反応の燃焼速度は温度や当量比で変わるのか

燃焼速度が温度や当量比で変わるのは、火炎伝播が化学反応の速さと、熱・燃料・酸素・活性種の輸送の両方で決まり、そのバランスが条件によって変化するからです。

  • 未燃混合気の温度が高いほど活性化障壁を越えやすく、反応速度定数が大きくなる
  • 当量比が変わると燃料・酸素濃度、火炎温度、ラジカル濃度が変わる
  • 希薄すぎても過濃すぎても燃焼速度は低下しやすい
  • 最大燃焼速度を示す当量比は燃料種によって異なる
  • 酸素濃度の低下は火炎温度と反応速度を下げ、燃焼速度を小さくすることがある
  • 圧力は反応機構と拡散の両方へ影響し、多くの炭化水素で層流燃焼速度を低下させることがある
  • 水素のように拡散が速い燃料では、熱拡散と物質拡散の差が速度へ強く影響する

つまり、燃焼速度は単に「燃料がよく燃えるか」という一つの性質ではありません。温度・当量比・酸素濃度・圧力・燃料種によって、化学反応と輸送現象のバランスが変わることで決まります。燃焼速度を正しく比較するには、これらの条件をそろえて評価することが重要です。

関連記事

参考文献・出典

関連する「なぜ?」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次