青いバナナが黄色くなったり、緑色だったトマトが赤くなったり、ブドウやリンゴの果皮がだんだん濃く色づいたりするように、果物の色は時間とともに変化します。また、同じ種類の果物でも、育った時期の温度や日当たり、収穫後の保存温度によって色づき方が違うことがあります。
こうした色の変化は、果実の表面に「色がつく」だけの現象ではありません。果実の中で、緑色のクロロフィルが分解されたり、黄色や橙色のカロテノイド、赤色や紫色のアントシアニンなどが作られたり蓄積したりすることで起こります。温度や時間は、それらの色素を作る酵素や成熟の進み方に影響します。
結論:果物の色は色素の「分解」と「生成」のバランスで変わる
果物の色が温度や時間などで変化する主な理由は、次の三つです。
- 成熟すると、緑色のもとになるクロロフィルが減る
- カロテノイドやアントシアニンなど、別の色素が増える
- 温度、光、エチレンなどが色素の生成・分解や成熟速度を変える
つまり、果物の色は固定されたものではなく、果実の発育段階や周囲の環境を反映した結果です。ただし、すべての果物が同じ仕組みで同じ色になるわけではありません。どの色素が多いか、どの温度で着色しやすいかは、果物の種類や品種によって異なります。
未熟な果物が緑色なのはなぜ?
多くの未熟果が緑色に見えるのは、果皮や果肉にクロロフィルが多く含まれているためです。クロロフィルは葉の緑色のもとになる色素で、光合成に関係しています。若い果実でも、発育の途中ではクロロフィルを多く含むことがあります。
果実が成熟すると、クロロフィルを保持していた細胞内の構造が変化し、クロロフィルが分解されます。その結果、それまで緑色に隠れていた黄色や橙色の色素が目立つようになったり、新たに別の色素が蓄積したりします。
果実の成熟に伴う色の変化をまとめた研究でも、クロロフィルの減少と、カロテノイドやアントシアニンの生成・蓄積が、多くの果物で重要な仕組みであることが示されています。
黄色や橙色になるのはカロテノイドが関係する
黄色や橙色の果物では、カロテノイドと呼ばれる色素群が重要です。カロテノイドには、黄色や橙色を示すさまざまな物質が含まれています。
トマトでは成熟に伴ってクロロフィルが減少し、赤色のリコピンなどのカロテノイドが蓄積します。柑橘類やマンゴーなどでも、緑色が薄れながら黄色や橙色の色素が目立つようになります。
ただし、色素が増える速度は温度によって変わります。トマトでは、収穫後の追熟温度が高すぎると赤色の発現が十分に進まず、黄色みの強い色になりやすいことが知られています。カリフォルニア大学デービス校の資料でも、トマトの追熟は20℃前後で良好な色の発現が得られ、高温すぎる条件では赤色が弱くなると説明されています。
赤や紫になるのはアントシアニンが関係する
リンゴ、ブドウ、サクランボ、ベリー類などの赤色や紫色には、アントシアニンが深く関係しています。アントシアニンはフラボノイドの一種で、植物が作る水溶性の色素です。
アントシアニンは、果実が成熟しただけで自動的に増えるとは限りません。光や温度の影響を強く受ける果物もあります。
たとえばブドウ「黒王」を使った研究では、成熟期の温度条件によって果皮のアントシアニン蓄積量が変化し、特に夜間が高温になる条件では着色が弱くなる場合が示されています。また、赤色系ブドウ「安芸クイーン」でも、成熟期の高温条件では着色が抑えられ、一定の時期に低温条件を与えると着色が進みやすいことが報告されています。
このため、同じ品種でも、暑い年と比較的涼しい年とで色づき方が違うことがあります。果皮の色は、品種だけでなく、その年の気象条件にも左右されるのです。
温度はなぜ色づき方を変えるの?
色素を作ったり分解したりする反応には、酵素や遺伝子の働きが関係しています。そして、それらの働きは温度の影響を受けます。
一般に、適した温度範囲では成熟に必要な代謝が進みますが、温度が高すぎると特定の色素の合成が抑えられることがあります。逆に、低温すぎる場合には成熟そのものが遅れたり、低温障害によって正常な着色が妨げられたりすることがあります。
つまり、「低温なら必ずよく色づく」「高温なら必ず色が悪くなる」と単純には言えません。最適な温度帯は果物や色素によって異なり、さらに成熟のどの時期にその温度に置かれたかも重要です。
時間がたてば色は必ず濃くなるの?
これも必ずしもそうではありません。時間の経過は、成熟や追熟が進むための条件の一つですが、色素が増え続けるとは限りません。
追熟型の果物では、収穫後もエチレンなどの作用によって成熟が進み、緑色が抜けたり、赤や黄色が強くなったりします。バナナでは緑色から黄色へ、トマトでは緑色から赤色へと変化するのが代表例です。
一方で、十分に成熟した後は、色素が分解したり、果皮が褐色化したりして、鮮やかな色が失われることもあります。つまり、時間は「成熟を進める段階」と「老化や劣化を進める段階」の両方に関係します。
光も果物の色に影響する
果物の着色には、温度だけでなく光も重要です。とくにアントシアニンの生成は、光の量や光質の影響を受けやすいことがあります。
リンゴでは、袋掛けや光条件の違いによってアントシアニン生成が変わることが研究されています。また、ウメ「露茜」では、樹冠の外側にある果実のほうが内側の果実より着色が進みやすく、光環境が赤色着色に関係することが報告されています。
そのため、一本の木になっている果実でも、日当たりのよい位置と日陰になりやすい位置とで色づき方が異なることがあります。
収穫後でも色は変わる?
果物の種類によっては、収穫後も色が変化します。バナナ、トマト、リンゴなどの一部では、収穫後も成熟や追熟が進みます。
たとえばトマトは、成熟した緑色の段階で収穫しても、適切な温度で保存すれば赤くなることがあります。これは、収穫後も果実内部でエチレンの作用や色素代謝が続くためです。
ただし、収穫が早すぎる場合や、保存温度が適切でない場合には、正常に色づかないことがあります。低温に弱い果物では、冷やしすぎると色づきが止まったり、表面がくすんだり、褐色になったりすることもあります。
「色の変化」と「変色」は同じではない
ここまで説明したのは、主に成熟や環境応答として起こる正常な色の変化です。一方、果物には、傷、乾燥、低温障害、酸化、微生物による腐敗などで色が変わる「変色」もあります。
たとえば切ったリンゴやバナナが茶色くなる褐変は、成熟時の赤色や黄色への変化とは仕組みが異なります。また、長期間保存した果物の黒ずみやくすみも、成熟色ではなく品質低下のサインである場合があります。
そのため、果物の色を見るときは、「熟して色が変わったのか」「保存中の障害や劣化で変色したのか」を分けて考えることが大切です。
家庭では色をどう見ればよい?
果物の色は食べ頃を判断する便利な手がかりですが、色だけで完全に判断することはできません。
- バナナやトマトなどでは、色の変化が追熟の進行を知る目安になる
- リンゴやブドウでは、品種や日当たり、温度によって着色の濃さが変わる
- 高温や低温が強すぎると、正常な着色が妨げられることがある
- 鮮やかな成熟色と、褐変・黒ずみなどの劣化による変色は区別する
- 食べ頃は、色に加えて香り、硬さ、触感なども合わせて判断する
見た目の色は果物の状態を映す重要な情報ですが、その背景には色素の生成・分解、成熟、温度、光、時間など複数の要因が関わっています。
まとめ
果物の色が温度や時間などで変化するのは、クロロフィル、カロテノイド、アントシアニンなどの色素が、成熟に伴って増えたり減ったりするためです。未熟な果物ではクロロフィルの緑色が目立ちますが、成熟するとクロロフィルが分解され、黄色・橙色・赤色・紫色など別の色素が目立つようになります。
温度は、色素を作る酵素や成熟の速度に影響します。高温で赤色着色が抑えられる果物もあれば、低温すぎることで正常な成熟が妨げられる果物もあります。また、アントシアニンのように光条件の影響を受けやすい色素もあります。
つまり、果物の色は「時間がたてば自然に変わる」という単純なものではなく、果物自身の成熟プログラムと、温度・光・保存条件が組み合わさって変化しているのです。
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参考資料
- 園芸学研究「ブドウ‘黒王’の成熟期における温度が果実の着色およびアントシアニン関連酵素活性に及ぼす影響」
- 園芸学研究「ウメ‘露茜’果実の熟度と着果条件がアントシアニンの蓄積およびその他の機能性成分含量に及ぼす影響」
- Plant Methods「Fruit ripening: dynamics and integrated analysis of carotenoids and anthocyanins」
- UC Davis Postharvest Research and Extension Center「Tomato」

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