買った直後は硬かったキウイフルーツが数日後にやわらかくなったり、青いバナナが黄色くなって甘くなったりするように、果物には収穫後も変化が続くものがあります。この変化の代表が「追熟」です。
追熟は、ただ時間がたてば自然に起こる現象ではありません。果実の中で呼吸や植物ホルモンの働きが変わり、細胞壁が分解されてやわらかくなったり、デンプンが糖へ変わったり、色や香りが変化したりします。そして、その進み方は温度、時間、エチレン、酸素や二酸化炭素の濃度など周囲の条件に大きく左右されます。
結論:追熟の進み方は、果実の代謝とエチレン反応が環境条件で変わるため変化する
果物の追熟が温度や時間などによって変化する主な理由は、次の三つです。
- 追熟中も果実は呼吸を続け、糖、酸、色素、香気成分、細胞壁などを変化させる
- バナナなどのクライマクテリック型果実では、エチレンが追熟を強く促進する
- 温度や保存環境によって、呼吸速度やエチレンの生成・作用、酵素反応の速さが変わる
そのため、同じ果物でも保存条件が違えば、食べ頃になるまでの時間や、やわらかさ、甘さ、香り、色の変化が異なります。ただし、温度が高いほど必ずよく熟すわけではありません。低すぎても高すぎても正常な追熟が妨げられることがあります。
そもそも「追熟」とは何?
追熟とは、収穫した後も果実の成熟が進み、食べやすい状態へ変化していくことです。代表的な変化には、果肉の軟化、緑色の退色、甘味の増加、酸味の変化、香りの発達などがあります。
追熟中の果実は、収穫されて植物体から切り離された後も生きています。酸素を取り込み、二酸化炭素を放出する呼吸を続け、そのエネルギーを使いながらさまざまな代謝を行います。
たとえばバナナでは、追熟に伴って果肉中のデンプンが糖へ変わり、果皮のクロロフィルが減って黄色くなり、果肉がやわらかくなります。これらは一つの反応ではなく、多数の酵素反応が連動して起こる変化です。
エチレンは追熟の重要なスイッチ
バナナ、リンゴ、ナシ、モモ、キウイフルーツ、トマトなどでは、追熟の開始とともに呼吸量やエチレン生成が大きく増えることがあります。このような果実は一般にクライマクテリック型果実と呼ばれます。
エチレンは植物が作る気体状の植物ホルモンです。ごく低い濃度でも果実に作用し、成熟に関係する遺伝子や酵素の働きを変化させます。そして果肉の軟化、色の変化、香気成分の生成など、追熟に伴う多くの反応を進めます。
日本のバナナを使った研究でも、緑熟果にエチレンを与えると追熟が誘導され、クロロフィルの退色や糖含量の増加が起こることが示されています。また、エチレン処理後には果実自身のエチレン発生や呼吸量も増加しました。
つまり、エチレンは単に外から与えられた刺激ではなく、果実自身の追熟反応を連鎖的に進める重要な調節因子なのです。
温度が高いと追熟が速くなりやすいのはなぜ?
果実の中で起こる呼吸や酵素反応は温度の影響を受けます。一般に、果物が正常に生理活動できる範囲では、温度が高くなると呼吸速度や多くの代謝反応が速くなります。そのため、低温で保存した場合より、ある程度高い温度で置いた場合のほうが追熟が速く進むことがあります。
キウイフルーツでは、カリフォルニア大学デービス校の収穫後資料で、温度が0℃から20℃へ上がるにつれて呼吸速度が大きくなることが示されています。また、エチレンを利用して追熟を促進する場合も、温度が高いほど追熟速度が速くなると説明されています。
バナナでも、保存・輸送には13〜14℃程度、追熟には15〜20℃程度が適した温度帯として示されています。追熟室ではエチレンと温度を組み合わせて、果実を均一に熟させる管理が行われています。
では、温度が高いほど追熟には良いの?
そうではありません。追熟には適した温度範囲があり、高すぎても低すぎても問題が起こります。
温度が高すぎると、呼吸による消耗が急激に増えたり、正常な色づきや香りの形成が妨げられたりすることがあります。反対に、低温では代謝が遅くなるため追熟を遅らせられますが、低温に弱い果物では低温障害が起こります。
たとえばバナナは低温に弱く、UC Davisの資料では13℃未満の条件に一定時間さらされると、果皮の変色や正常に追熟しないなどの低温障害が起こるとされています。したがって、追熟を遅らせたいからといって、どの果物でも強く冷やせばよいわけではありません。
白肉モモを10〜30℃で追熟させた日本の研究でも、呼吸量、エチレン排出量、軟化などの進み方は温度によって異なりました。追熟の反応は単純に温度だけに比例するのではなく、果物の種類と温度帯によって変化します。
時間がたつと追熟はどこまでも進むの?
追熟には段階があります。未熟な段階から食べ頃へ向かう間は、やわらかさ、甘さ、香りなどが改善します。しかし、食べ頃を過ぎても時間がたてば、老化や品質劣化が進みます。
過熟になると、果肉が崩れやすくなり、呼吸で糖や有機酸が消費され、香りが変化し、微生物による腐敗も起こりやすくなります。そのため、「長く置くほどおいしくなる」わけではありません。
追熟とは、食べ頃に近づく成熟過程であり、その後は老化・劣化の段階へ移っていきます。家庭では、食べ頃になった時点で冷蔵などに切り替え、変化の速度を落とすことが大切です。
すべての果物が収穫後に追熟するわけではない
果物は伝統的に、クライマクテリック型と非クライマクテリック型に分けて説明されます。
クライマクテリック型では、成熟期に呼吸量とエチレン生成が増え、収穫後も追熟が進みやすいのが特徴です。バナナ、リンゴ、モモ、ナシ、キウイフルーツなどが代表例です。
一方、イチゴ、ブドウ、柑橘類などは、クライマクテリック型のような大きな呼吸・エチレンの増加を示さず、収穫後に品質が大きく向上する追熟は一般に期待しにくいとされます。近年の研究では、果物ごとにホルモン制御が複雑で、単純な二分類だけでは説明できない例も知られていますが、家庭での保存を考えるうえでは有用な区別です。
つまり、「硬い果物をしばらく置けば全部甘くなる」という考え方は正しくありません。収穫後にどの程度成熟できるかは、果物の種類と収穫時の熟度によって異なります。
エチレンを出す果物と一緒に置くと追熟が進むのはなぜ?
リンゴや熟したバナナなどはエチレンを放出します。エチレンに敏感な果物を近くに置くと、そのエチレンを受けて追熟が早まることがあります。
キウイフルーツは特にエチレンへの感受性が高く、UC Davisの資料では非常に低濃度のエチレンでも軟化が誘導されることが示されています。そのため、早く食べ頃にしたい場合にはエチレンを利用できますが、長く硬さを保ちたい場合にはエチレンを出す農産物から離して保存する必要があります。
ただし、袋に入れれば必ず理想的に追熟するわけではありません。密閉しすぎて二酸化炭素が増えたり、温度が高くなったりすると、正常な追熟が妨げられる場合があります。
酸素や二酸化炭素も追熟に関係する
果実の呼吸には酸素が必要です。そのため、保存中の酸素濃度を下げたり二酸化炭素濃度を調整したりすると、呼吸やエチレン生成を抑え、追熟を遅らせられる場合があります。
この性質を利用したのがCA貯蔵と呼ばれる方法です。バナナやキウイフルーツなどでは、通常の空気とは異なる酸素・二酸化炭素濃度に調整することで、硬さを保ち、保存期間を延ばす技術が使われます。
ただし、酸素が低すぎたり二酸化炭素が高すぎたりすると、異常な代謝や内部障害、好ましくない風味が生じることがあります。ここでも「変化を遅らせるほどよい」のではなく、適切な範囲が重要です。
家庭では追熟をどう調整すればよい?
家庭では、追熟させたい段階と、食べ頃を保ちたい段階を分けて考えると扱いやすくなります。
- バナナやキウイフルーツなど、追熟する果物は適した室温で食べ頃まで置く
- 早く追熟させたい場合は、エチレンを出す果物と一緒に置く方法が使えることがある
- 食べ頃になったら、果物に適した温度で冷蔵して変化を遅らせる
- 低温障害を起こしやすい果物は、未熟な段階で冷やしすぎない
- 長期間置けば品質が上がり続けるわけではないため、色、香り、硬さを見て食べ頃を判断する
果物ごとに追熟の性質や適温は異なります。保存方法を決めるときは、その果物が収穫後に追熟する種類なのかを知ることが重要です。
まとめ
果物の追熟が温度や時間などによって変化するのは、収穫後も果実が呼吸と代謝を続け、エチレンなどの植物ホルモンを介して、軟化、色づき、甘さ、酸味、香りなどを変化させるためです。
温度は呼吸や酵素反応、エチレンの生成・作用に影響するため、追熟の速さを大きく左右します。しかし、高温ほど良いわけではなく、低温障害や高温による異常もあります。また、時間を置けばどの果物もおいしくなるわけではなく、収穫後に追熟しやすい果物と、そうでない果物があります。
つまり、追熟の進み方は「時間」だけで決まるのではなく、果物の種類、熟度、温度、エチレン、呼吸環境などが組み合わさって決まっているのです。
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参考資料
- 化学と生物「果実の成熟(追熟)とエチレン」
- 園芸学会雑誌「異なる温度での白肉桃の追熟生理」
- Plant Molecular Biology「Different regulatory mechanisms of plant hormones in the ripening of climacteric and non-climacteric fruits: a review」
- UC Davis Postharvest Research and Extension Center「Banana (Cavendish)」
- UC Davis Postharvest Research and Extension Center「Kiwifruit」

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