植物の葉は多くが緑色ですが、よく見ると濃い緑、黄緑、青みのある緑、やや黄色みのある緑など、色合いは同じではありません。同じ種類の植物でも、日向と日陰、若い葉と古い葉、栄養状態の違いによって葉色が変わることがあります。なぜ同じ緑色の葉でも、種類や環境によって濃さや色合いが違うのでしょうか。
結論からいうと、葉の緑色の濃さや色合いは、クロロフィルの総量、クロロフィルaとbの比率、カロテノイドやアントシアニンなど他の色素との割合、葉の厚さや内部構造、窒素・マグネシウムなどの栄養状態、葉齢によって変わるためです。つまり、緑色に見える基本原理は共通でも、色素の量と組み合わせ、葉の構造が違えば見える緑も変わります。
緑色の濃さを大きく左右するのはクロロフィル量
葉が緑色に見える中心的な理由は、葉緑体にクロロフィルが多く含まれていることです。
一般に、単位面積あたりのクロロフィル量が多い葉は、赤色や青色の光をより多く吸収し、反射・透過する光の組成も変わるため、肉眼では濃い緑に見えやすくなります。
ただし、見た目の濃さはクロロフィル量だけでは決まりません。葉の厚さ、表面の反射、他の色素量も影響するため、同じクロロフィル濃度でも葉色が同じになるとは限りません。
クロロフィルaとbでは吸収する光の範囲が少し違う
高等植物の葉には主にクロロフィルaとクロロフィルbがあります。
クロロフィルaは光化学反応の中心的な色素で、クロロフィルbは主に光捕集アンテナで働きます。両者は吸収スペクトルが少し異なるため、その比率が変わると葉全体の吸収特性も変わります。
日陰で育った葉では、クロロフィルa/b比が低くなる例があります。これは、弱い光を集めるためにクロロフィルbを多く含む光捕集アンテナの割合が増えることと関係します。
日陰の葉が必ず薄い緑になるわけではない
日陰葉は薄い葉になりやすいため、見た目も薄い緑だと考えがちですが、必ずしもそうではありません。
弱光環境では、一枚の葉が受け取れる光子が少ないため、光捕集アンテナへの投資を増やし、単位重量あたりのクロロフィル量が増えることがあります。その結果、薄い葉でも濃い緑に見える場合があります。
一方、日向葉は厚いため、単位面積あたりではクロロフィル量が多くても、強光適応によって色素組成やカロテノイド比が変わります。
光の強さと波長は色素組成を変える
葉が発生するときの光環境は、クロロフィル量やクロロフィルa/b比、光化学系の構成へ影響します。
海外の研究では、日光、日陰光、青色光など異なる光条件で育てた葉でクロロフィルa/b比や光化学系I・IIの比率が変化することが示されています。
つまり植物は、単に「暗いほどクロロフィルを増やす」という一方向の反応ではなく、光の量と質に合わせて光捕集装置の構成自体を調整します。
窒素が不足すると葉色が薄くなりやすい
クロロフィルや光合成関連タンパク質をつくるには、多くの窒素が必要です。
そのため窒素が不足すると、葉のクロロフィル量が減り、葉色が淡くなることがあります。農業では、葉色やSPAD値を窒素栄養状態の指標として利用することがあります。
日本のコムギ研究でも、窒素追肥によって葉身の窒素含有率とSPAD値が増加し、クロロフィルタンパク質の蓄積が増えることが示されています。
葉色計やSPAD値はクロロフィル量の目安になる
SPADメーターは葉を透過する光を使って、葉の緑色の濃さを数値化する装置です。
日本の水稲研究では、SPAD値と葉身の窒素濃度に高い相関が見られ、窒素栄養診断に利用できることが示されています。
ただし、SPAD値と実際のクロロフィル量との関係は、葉厚、品種、生育段階などで変わります。見た目の緑色が濃いからといって、必ず同じ量のクロロフィルを持つとは限りません。
葉の厚さも「緑の濃さ」に影響する
厚い葉では、光が通過する葉肉組織の距離が長くなり、内部に多くの葉緑体を配置できます。
そのため、単位面積あたりのクロロフィル量が多くなり、濃い緑に見える場合があります。
一方、薄い葉は光が透過しやすく、同じクロロフィル濃度でも明るい緑に見えることがあります。葉色を比べるときは、色素だけでなく葉厚も考える必要があります。
マグネシウム不足では黄化が起こる
マグネシウムはクロロフィル分子の中心にある元素で、葉緑体の構造や多くの酵素反応にも関わります。
長期間マグネシウムが不足すると、クロロフィル量が減り、葉脈間が黄色くなるクロロシスが現れることがあります。
海外のレビューでは、マグネシウム欠乏でクロロフィル装置の遺伝子発現低下や葉緑体機能の障害が起こり、黄化や光合成低下へつながることが整理されています。
栄養不足による黄化は元素によって現れ方が違う
葉が黄緑色になる原因は窒素不足やマグネシウム不足だけではありません。
鉄など他の微量元素が不足しても、クロロフィル合成や葉緑体形成が妨げられ、黄化が起こることがあります。
また、どの葉から症状が出るかは元素の植物体内での移動しやすさによって異なります。色だけを見て栄養欠乏元素を断定することはできません。
若い葉と成熟葉では色が違うことがある
展開直後の若い葉では、葉緑体やクロロフィルがまだ十分に発達していないため、成熟葉より淡い緑に見えることがあります。
成長とともにクロロフィルが蓄積し、葉緑体のチラコイド膜が発達すると、緑色が濃くなります。
植物種によっては若い葉にアントシアニンを多く含み、赤紫色や銅色に見えることもあります。これはクロロフィルがないとは限らず、別の色素が緑を覆って見える場合があります。
古い葉ではクロロフィルが分解される
葉が老化すると、クロロフィルや光合成タンパク質が分解され、窒素などの養分がほかの器官へ回収されます。
クロロフィルが減ると、それまで目立ちにくかった黄色のカロテノイドが見えるようになり、黄緑から黄色へ色が変わります。
つまり、同じ一枚の葉でも、葉齢によって色素量が変化し、緑色の濃さは一定ではありません。
カロテノイドとの比率でも緑の色合いが変わる
葉緑体にはクロロフィルだけでなく、カロテノイドもあります。
カロテノイドは黄から橙色の色素で、光捕集や過剰光からの保護に働きます。通常の緑葉ではクロロフィルが多いため黄橙色は目立ちませんが、クロロフィルとの比率が変わると、緑色が黄みを帯びて見えることがあります。
強光条件では光防御の必要性が高まるため、クロロフィルとカロテノイドの比率が変化することがあります。
アントシアニンが多いと緑が隠れることがある
一部の植物では、葉に赤紫色のアントシアニンが多く蓄積します。
アントシアニンは緑〜黄の波長を強く吸収するため、クロロフィルを含む葉でも赤や紫に見えることがあります。
海外研究では、赤い葉でもクロロフィルや光化学系は存在し、アントシアニンが作る光環境に合わせてクロロフィルa/b比などが調整される例が報告されています。
植物種によって基準となるクロロフィル量が違う
葉色は、同じ環境で育てればすべての植物が同じになるわけではありません。
植物種ごとに、葉厚、葉緑体数、クロロフィル合成量、光捕集アンテナの構成、カロテノイド量などの遺伝的な特徴が異なります。
そのため、ある植物では濃い緑が正常で、別の植物では明るい緑が正常ということがあります。異なる種を比べるときは、色の濃さだけで健康状態を判断できません。
同じ植物でも葉の位置で色が違うことがある
樹冠の外側と内側、上部と下部では、光の強さや葉温、湿度が異なります。
その結果、同じ一本の植物でも、葉厚、クロロフィル量、クロロフィルa/b比などが変わり、葉色に差が出ることがあります。
日本の水稲研究でも、同じ葉の左右や葉位によって葉色値に規則的な差が見られることが報告されています。葉色は植物体の中でも均一ではありません。
葉色が濃ければ光合成が必ず高いわけではない
濃い緑の葉はクロロフィル量が多い場合がありますが、それだけで光合成速度は決まりません。
光合成には光、二酸化炭素、水、気孔開度、Rubiscoなどの酵素活性、葉温、電子伝達能力など多くの要因が関わります。
クロロフィルを必要以上に増やしても、ほかの段階が律速なら乾物生産は増えないことがあります。日本のコムギ研究でも、窒素追肥でSPAD値が上がっても乾物重が増えない例が報告されています。
「緑に見える理由」と「緑の濃さが違う理由」は別の問い
葉が緑色に見える基本的な理由は、クロロフィルが赤・青の光を強く吸収し、緑付近の光が相対的に反射・透過されやすいためです。
一方、本記事で扱っているのは、その緑色がなぜ濃くなったり淡くなったり、黄み・青みを帯びたりするかという比較の問いです。
色素量、色素比、葉厚、栄養、光環境、葉齢の違いを合わせて考えることで、葉色の多様性を理解できます。
身近な植物で葉色を比べるポイント
- 同じ植物の日向側と日陰側で緑の濃さが違うか
- 若葉と成熟葉で色がどう変わるか
- 古い葉で黄化がどこから始まるか
- 葉が厚い種類と薄い種類で透け方が違うか
- 施肥前後で新しく出る葉の色が変わるか
- 赤紫色の葉でも裏面や若い部分に緑色が見えるか
葉色を観察するときは、一枚だけで判断せず、同じ種類・同じ葉齢・似た位置の葉を比べると、環境や栄養の影響を考えやすくなります。
まとめ
同じ緑色の葉でも種類や環境によって濃さや色合いが違うのは、クロロフィル総量、クロロフィルa/b比、カロテノイドやアントシアニンとの比率、葉厚、窒素・マグネシウムなどの栄養状態、葉齢が異なるためです。
日陰では光捕集アンテナの構成が変わり、クロロフィルbの割合が増えることがあります。窒素不足やマグネシウム不足ではクロロフィル量が低下し、葉は淡緑〜黄色になりやすくなります。若葉・老化葉では色素量そのものが発生段階に応じて変化します。
つまり、葉の緑色は一つの固定色ではありません。植物種ごとの遺伝的特徴と、その葉が育った光・栄養・発生段階が重なって、さまざまな濃さや色合いの緑が生まれるのです。
参考資料
- 尿素の葉面散布がパン用コムギ品種「せときらら」の子実タンパク質含有率ならびに植物体内の窒素蓄積動向に及ぼす影響
- 水稲の葉半における葉色と窒素濃度の葉位間変動の規則性
- Photosynthetic Quantum Yield Dynamics: From Photosystems to Leaves
- Critical Issues in the Study of Magnesium Transport Systems and Magnesium Deficiency Symptoms in Plants

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