照明の光は、目には一定に見えていても、実際には短い時間の中で強くなったり弱くなったりしていることがあります。このような時間方向の光出力の変化を、照明分野では時間的光変動として扱います。
ただし、光が変動しているからといって、いつでも同じように「チカチカ」と見えるわけではありません。変動の速さ、変動の大きさ、波形、さらに目や物体が動いているかどうかによって、直接ちらついて見えたり、動く物体が分かれて見えたり、光源が複数像のように見えたりします。
照明のちらつきの仕組みを理解するには、光源側の時間変動という刺激と、人がそれをどう知覚するかという反応を分けて考えることが大切です。
まず区別したいのは「光の変動」と「見え方」
米国エネルギー省は、光出力が時間とともに変化する刺激そのものをTemporal Light Modulation、略してTLMとして説明しています。
一方、人がその変動を見た結果として生じるちらつき感や、動く物の見え方の変化は、時間的光変動による視覚的な現象として区別して扱われます。
つまり、照明が時間的に変動していることと、人がそれを直接ちらつきとして感じることは同じではありません。
光の時間波形が入力であり、目と脳がその入力をどのように処理するかによって見え方が決まります。
時間波形には「周期」と「振幅」がある
光出力を時間に沿ってグラフにすると、明るさが上下する波形として表せます。
一定の間隔で変動する光では、一回の変動にかかる時間を周期といい、1秒間に何回繰り返すかを周波数Hzで表します。
たとえば100Hzなら、基本的には1秒間に100回の周期変化があることを意味します。
さらに、最大の光出力と最小の光出力の差が大きいほど、変動は深くなります。周波数が同じでも、ほとんど明るさが変わらない光と、明るい状態からほぼ消灯まで変わる光では、知覚されやすさが同じとは限りません。
変調深さは「どれくらい大きく明るさが揺れるか」を表す
時間的光変動を考えるとき、変動の速さだけでなく、明るさの上下幅が重要です。
Illuminating Engineering Societyは、最大値と最小値から求めるpercent modulationを、時間的光変動の大きさを表す指標の一つとして定義しています。
最大値と最小値の差が小さければ変調は浅く、差が大きければ深くなります。
たとえば、100から90の範囲で変わる光と、100から0近くまで変わる光では、同じ周波数でも後者の方が時間的な明暗差は大きくなります。
そのため、「何Hzか」だけでは、ちらつきの見えやすさを十分に説明できません。
波形の形も見え方に関係する
光の時間変動は、なめらかな正弦波だけとは限りません。
ゆっくり上下する波形、急に点灯と消灯を切り替える矩形波、複数の周波数成分を含む複雑な波形などがあります。
同じ周波数と変調深さでも、点灯している時間の割合や、明るさの立ち上がり・立ち下がり方が違えば、目へ届く刺激の時間構造も変わります。
IESのflicker indexも、波形の面積や形を考慮する指標として使われてきました。ただし、flicker index自体は周波数を直接考慮しないため、時間的光変動の評価には複数の要素を合わせて見る必要があります。
低い周波数では光源そのものがちらついて見えやすい
光源も観察者も周囲の物体もほぼ静止しているとき、比較的ゆっくりした光変動は、光源や照らされた面が直接明滅しているように見えることがあります。
IESは、このような現象をdirect flickerとして整理し、静止した観察者が静止した環境を見る条件では、おおむね低い周波数帯で知覚されやすいとしています。
米国エネルギー省も、低い周波数の時間的光変動では、光の強さが時間とともに変わって見える「visible flicker」として知覚されると説明しています。
ここでは、光源そのものの明滅が主な見え方になります。
ちらつきが見えなくなる境界は一つの固定値ではない
点滅の周波数を上げていくと、あるところから連続した光のように見えてきます。この境界は臨界融合周波数などと呼ばれます。
しかし、すべての人、すべての明るさ、すべての視野条件で同じ値になるわけではありません。
国内の人間工学研究では、10〜35Hzの点滅光を使って周波数弁別を調べ、周波数によって人が変化を見分ける特性が異なることが示されています。
また、ちらつきの知覚は光の強さ、視野の大きさ、周辺視野、観察者の状態などにも影響されます。
そのため、「この周波数を超えれば誰にも何も見えない」という一つの境界だけで考えるのは適切ではありません。
物体が動くとストロボ効果として見えることがある
光源そのものはちらついて見えなくても、照らされている物体が動くと、別の視覚現象が現れることがあります。
IESは、時間的に変動する光の下で動く物体を見ると、動きが連続ではなく、飛び飛びの位置に現れるように感じる現象をstroboscopic effectとして定義しています。
たとえば、手をすばやく振ったときに輪郭が複数に分かれて見えたり、回転する物体がぎこちなく動いて見えたりする場合があります。
ここでは「光源がちらついて見えるか」よりも、「変動する光が動く物体をどの時間位置で照らしているか」が重要になります。
同じ光でも、目が動くと別の像が見えることがある
観察している物体が静止していても、眼球が素早く動くと、時間的光変動が複数の像として知覚されることがあります。
このような現象はphantom arrayなどと呼ばれます。
米国エネルギー省は、目の動きによって、時間変動する光源や照らされた対象が点や線の列のように見える場合があると説明しています。
これは、光源の時間変動が、眼球運動によって網膜上の異なる位置へ順番に記録されるためです。
したがって、時間的光変動の影響は、光源・物体・目がすべて静止している条件だけでは分かりません。
高い周波数なら必ず影響がなくなるわけではない
直接ちらつきは比較的低い周波数で見えやすい一方、ストロボ効果やphantom arrayは、より高い周波数でも条件によって知覚されることがあります。
DOEの研究紹介では、目、頭、光源、物体の間に相対的な動きがあると、1000Hzを超える時間的光変動でも知覚される条件があるとされています。
IESも、ストロボ効果を一般に約80〜2000Hzの範囲で説明しています。
そのため、照明の時間特性は「周波数が高いほど自動的に問題がなくなる」とは限らず、変調深さ、波形、動き、観察条件を合わせて考える必要があります。
なぜLED時代に時間的光変動が注目されるのか
時間的な光変動はLEDだけの現象ではありません。白熱電球や蛍光灯でも、電源の周期や点灯回路によって光出力は変動します。
ただしLEDは、流れる電流の変化に非常に速く反応します。白熱電球のフィラメントのように熱による大きな慣性がないため、ドライバが作った電流波形が光出力へ反映されやすい特徴があります。
その結果、LEDではドライバや調光方式によって、非常に多様な時間波形を作ることができます。
これは高速制御しやすいという利点でもありますが、時間波形の設計が光の品質に直接関わるという意味でもあります。
カメラは人の目とは違う時間の切り取り方をする
人の目では連続した光に見えていても、スマートフォンやカメラでは縞や明暗の変化が写ることがあります。
カメラは、シャッター時間やセンサーの読み出しタイミングで短い時間の光を記録します。そのため、照明の時間波形と撮影周期が重なると、肉眼とは違う形で変動が見えることがあります。
つまり、照明の「ちらつき」は人の知覚だけでなく、撮像機器との時間的な組み合わせでも別の現象として現れます。
撮影環境では、肉眼で安定して見えるかだけでなく、実際のフレームレートやシャッター条件で確認する必要があります。
ちらつき評価では一つの数値だけを見ない
時間的光変動の評価には、周波数、変調深さ、波形、デューティ比など複数の情報があります。
IESはpercent modulationやflicker indexなどの指標を定義してきましたが、それぞれが捉える特徴は異なります。
近年は、人が直接ちらつきを知覚する可能性や、ストロボ効果の見えやすさを予測するための指標も使われています。
重要なのは、単純に「ちらつき○%」「○Hz」という一つの数字だけで良し悪しを決めるのではなく、どの視覚現象を評価したいのかに応じて指標を選ぶことです。
ちらつきの仕組みを見る5つのポイント
- 周波数:1秒間に何回、光出力が変動するかを見る。
- 変調深さ:最大と最小の光出力がどれほど違うかを見る。
- 波形:なめらかな変化か、急な点灯・消灯かなど時間形状を見る。
- 動き:光源、物体、目が静止しているか、相対的に動いているかを考える。
- 評価対象:直接フリッカ、ストロボ効果、phantom array、撮影時の縞など何を見ているか区別する。
この5点を分けると、「ちらつく・ちらつかない」という二択ではなく、時間的光変動がどの条件でどの見え方へ変わるのかを整理できます。
まとめ:ちらつきは光の時間波形と観察条件の組み合わせで生まれる
照明のちらつきは、光出力が時間とともに変化することから始まります。しかし、人が何を感じるかは、周波数だけで決まりません。
変調深さ、波形、点灯時間の割合に加え、光源や物体、目が動いているかどうかによって、直接フリッカ、ストロボ効果、phantom arrayなど異なる見え方になります。
つまり、時間的光変動は光源側の刺激であり、「ちらつき」はその刺激を視覚系が受け取った結果として現れる現象です。この違いを理解すると、照明の時間特性を、単なるチカチカの有無ではなく、光の波形と観察条件の組み合わせとして考えられるようになります。
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参考資料
- 人間工学「光刺激のちらつき光の周波数弁別閾に関する再検討」
- 心理学評論「フリッカによる不快感と視覚特性」
- U.S. Department of Energy「Flicker Basics」
- Illuminating Engineering Society「stroboscopic effect」

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