レム睡眠は、一晩のどこでも同じように現れるわけではありません。眠り始めのころは短く、朝方に近づくほど長くなりやすいという時間変化があります。また、乳幼児では成人よりレム睡眠の割合が多く、年齢とともにその構成は変わります。さらに、睡眠をとる時刻や体内時計とのずれ、暑さ・寒さなどの睡眠環境によっても、レム睡眠の現れ方は変化します。
これは、レム睡眠が単独で固定的に出現する睡眠段階ではなく、ノンレム睡眠との周期、体内時計、睡眠の恒常性、脳の発達・加齢、体温調節など複数の仕組みによって調整されているためです。
つまり「レム睡眠は毎晩20%前後だから、いつでも同じ」というわけではありません。一晩の中の時間、人生の年齢、眠る環境や時刻によって、レム睡眠の長さや出現する位置は動きます。
レム睡眠は一晩の中でどう変化するの?
人の睡眠では、ノンレム睡眠とレム睡眠が約90〜120分の周期で繰り返されます。厚生労働省のe-ヘルスネットでは、通常の夜間睡眠では深いノンレム睡眠を経たあとにレム睡眠が現れ、朝方になるにつれてレム睡眠の持続時間が長くなると説明されています。
夜の前半は、長時間起きていたことによって高まった睡眠圧が強く、深いノンレム睡眠が多く現れます。眠りが進むにつれて睡眠圧は下がり、深いノンレム睡眠は減っていきます。その一方、レム睡眠は後半ほど長くなりやすくなります。
そのため、8時間の睡眠を前半4時間だけ切り取った場合と、後半4時間だけ切り取った場合では、含まれるレム睡眠の量は同じではありません。
なぜ朝方になるほどレム睡眠が長くなるの?
レム睡眠の出現には、睡眠開始からの経過時間だけでなく、体内時計による概日リズムも関係します。人の睡眠を調べた研究では、レム睡眠は体内時計の時刻に強く影響され、通常の生活では早朝から朝にかけて出現しやすくなることが知られています。
このため、夜の前半に多い深いノンレム睡眠と、夜の後半に増えるレム睡眠という特徴が生まれます。単純に「眠りが浅くなったからレム睡眠になる」のではなく、睡眠圧の変化と体内時計の信号が重なって睡眠段階の配分が変化しています。
朝方に目覚める直前の夢を覚えやすいことがあるのも、この時間帯に長いレム睡眠が現れやすいことと関係します。ただし、夢はノンレム睡眠でも生じるため、「朝の夢=必ずレム睡眠」とは限りません。
睡眠時刻が変わるとレム睡眠の位置も変わる?
変わることがあります。レム睡眠には体内時計の影響があるため、「何時間眠ったか」だけでなく、「体内時計のどの時刻に眠ったか」も重要です。
たとえば普段より極端に早い時刻に眠ると、その睡眠の前半が体内時計上のレム睡眠が出やすい時刻とずれることがあります。反対に、朝方まで起きてから眠ると、睡眠開始直後から体内時計上はレム睡眠が出やすい時刻に近い場合があります。
夜勤や時差移動のように睡眠時刻と体内時計が大きくずれる環境では、普段の夜間睡眠とは睡眠段階の配置が変わることがあります。これは、レム睡眠が時計時刻そのものではなく、内在する概日リズムとの関係で調節されるためです。
一晩のレム睡眠はどれくらい?
成人では、レム睡眠は一晩の総睡眠時間のおよそ2割を占めるのが一般的です。ただし、これは平均的な目安であり、毎晩まったく同じ割合になるわけではありません。
睡眠時間が短く、特に朝方の睡眠が削られれば、後半に多いレム睡眠も削られやすくなります。逆に、十分な時間眠った場合には、朝方の長いレム睡眠まで含まれるため、一晩の総レム睡眠時間が長くなることがあります。
したがって、同じ人でも「6時間睡眠の夜」と「8時間睡眠の夜」でレム睡眠量が違うのは不自然ではありません。
年齢によってレム睡眠はどう変化するの?
レム睡眠の割合は、生まれてから高齢期まで一定ではありません。厚生労働省のe-ヘルスネットでは、レム睡眠は発達期に多く、成人以後は加齢とともに減少する傾向があると説明されています。
乳幼児は成人よりはるかに多くの時間をレム睡眠に相当する状態で過ごします。成長に伴って睡眠構造が成熟すると、ノンレム睡眠とレム睡眠の周期が成人型に近づき、レム睡眠の割合も低下していきます。
健康な人の睡眠を年代別にまとめたメタ解析でも、成人期では年齢が上がるにつれてレム睡眠の割合やレム潜時などに変化がみられることが報告されています。ただし、変化は一直線ではなく、年齢以外の健康状態や睡眠障害の有無にも影響されます。
乳幼児にレム睡眠が多いのはなぜ?
乳幼児期は脳が急速に発達する時期で、レム睡眠も成人より非常に多く現れます。発達研究では、出生後の脳成熟とともにレム睡眠の割合が大きく減少していくことが知られています。
レム睡眠が脳の発達や神経回路の成熟にどのような役割を持つかは現在も研究されていますが、「乳幼児は成人よりレム睡眠が多い」という変化自体は確立した睡眠発達の特徴です。
そのため、成人の約20%という値を乳幼児にそのまま当てはめることはできません。年齢によって正常な睡眠構造そのものが違います。
高齢になるとレム睡眠はなくなるの?
なくなりません。加齢ではレム睡眠の割合が小さくなる傾向がありますが、高齢者でもレム睡眠は正常な睡眠段階として現れます。
加齢で特に大きく変わるのは、深いノンレム睡眠の減少、夜間覚醒の増加、睡眠効率の低下などです。レム睡眠も変化しますが、「高齢者はレム睡眠がほとんどない」と考えるのは誤りです。
また、同じ年齢でも睡眠の状態には大きな個人差があります。年齢だけで一晩のレム睡眠量を予測することはできません。
体内時計の加齢変化でもレム睡眠は変わる?
変わる可能性があります。加齢すると、睡眠・覚醒の時刻が早い方向へ動きやすくなり、概日リズムの振幅も変化します。
レム睡眠は体内時計の影響を強く受けるため、睡眠の時刻と概日リズムの関係が変われば、レム睡眠が現れやすい時刻や分布も変化します。高齢者では若年者より早寝早起き方向へ移る人が多く、朝方の睡眠が短くなることもあります。
つまり、加齢によるレム睡眠の変化は、脳の成熟・老化だけでなく、体内時計と睡眠時刻の変化も含めて考える必要があります。
環境温度でレム睡眠は変わるの?
睡眠は周囲の温度にも影響されます。特にレム睡眠では、覚醒時やノンレム睡眠時と比べて体温調節の働きが弱くなることが知られています。
米国国立心肺血液研究所(NHLBI)は、寒い環境ではレム睡眠が少なくなることがあると説明しています。また、睡眠と体温調節のレビューでは、暑すぎる環境や寒すぎる環境では睡眠構造が乱れ、レム睡眠の持続時間が減ることがあると報告されています。
ただし、室温とレム睡眠の関係は「1度上がれば何分減る」という単純なものではありません。寝具、衣服、湿度、本人の体温調節、暑さ寒さへの慣れなどでも影響が変わります。
なぜレム睡眠中は温度環境の影響を受けやすいの?
レム睡眠中は、体温調節に関わる反応が覚醒時より制限されます。たとえば寒いときに熱を作り、暑いときに熱を逃がす反応の一部が弱くなります。
そのため、極端な暑さや寒さでは、体はレム睡眠を安定して続けにくくなることがあります。これはレム睡眠を制御する神経回路と体温調節に関わる神経回路が一部重なっていることとも関係すると考えられています。
睡眠環境を考えるときは「レム睡眠を増やす温度」を探すより、暑すぎず寒すぎず、睡眠全体を安定させられる環境を作ることの方が現実的です。
光の環境もレム睡眠に影響する?
光は、レム睡眠を直接オン・オフするスイッチというより、体内時計と睡眠時刻を動かすことで間接的にレム睡眠の配置へ影響します。
朝の光は体内時計を早い方向へ、夜の強い光は遅い方向へ動かしやすくなります。夜遅くまで明るい環境で過ごして睡眠時刻が後ろへずれると、レム睡眠が出やすい概日リズム上の時刻と実際の睡眠時間帯の関係も変わります。
したがって「光を浴びればレム睡眠が増える」「暗くすれば必ず減る」と直接結びつけるのではなく、光が体内時計と睡眠時刻を通じて睡眠構造に影響すると考えるのが適切です。
夜勤や時差ぼけではレム睡眠はどう変わる?
夜勤や時差のある旅行では、外界の昼夜と体内時計が一時的にずれます。レム睡眠には強い概日リズムがあるため、このずれはレム睡眠が出現する時刻や連続性に影響します。
夜勤後に昼間眠る場合、本人の体内時計はまだ日中の覚醒を支える時刻に近く、睡眠そのものが短く分断されやすくなります。睡眠が短くなれば、結果としてレム睡眠の総時間も変化します。
時差ぼけでも、現地の時計時刻と体内時計の時刻が一致するまで数日かかるため、その間は普段と同じ睡眠段階の配置にならないことがあります。
睡眠不足の後にレム睡眠は変わる?
睡眠不足の影響は、どの睡眠段階がどれだけ失われたかによって異なります。睡眠不足後には深いノンレム睡眠が優先的に回復することが多い一方、レム睡眠を選択的に減らした実験では、その後にレム睡眠が増える「レム睡眠リバウンド」が起こることがあります。
ただし、日常生活で睡眠時間が短かった翌日に必ず同じ量だけレム睡眠が増えるわけではありません。睡眠圧、体内時計、起床時刻、睡眠機会の長さなどが同時に影響します。
そのため、レム睡眠の時間変化を理解するときは、直前の一晩だけではなく、前日までの睡眠履歴も背景として考える必要があります。
薬やアルコールは「環境」に含めて考えてよい?
厳密には、室温や光と同じ物理環境ではありませんが、睡眠を取り巻く外的条件としてレム睡眠へ影響します。抗うつ薬をはじめ一部の薬では、レム睡眠が始まるまでの時間を延ばしたり、レム睡眠量を減らしたりすることがあります。
アルコールも睡眠構造を変化させます。寝つきが一時的によく感じられても、後半の睡眠が不安定になり、睡眠段階の分布が変わることがあります。
ただし、薬の種類や用量によって影響は異なります。睡眠の変化が気になっても、自己判断で処方薬を中止せず、医師や薬剤師へ相談することが重要です。
レム睡眠が変化したら「睡眠の質が悪い」の?
一晩のレム睡眠がいつもより多い・少ないというだけで、睡眠の質を判断することはできません。レム睡眠は年齢、睡眠時刻、睡眠時間、体内時計、温度などによって自然に変動します。
また、健康な睡眠はレム睡眠だけで成り立つものではありません。ノンレム睡眠との周期、総睡眠時間、途中覚醒の少なさ、日中の眠気や休養感などを合わせて考える必要があります。
家庭用のスマートウォッチなどで表示される睡眠段階も、脳波を含む医療用の睡眠ポリグラフ検査と同じ方法で直接測定しているとは限りません。一晩の推定値だけで異常と判断しないことが大切です。
時間・年齢・環境による変化を整理すると
| 変化する条件 | レム睡眠にみられる主な傾向 |
|---|---|
| 夜の前半から後半 | 朝方に近づくほどレム睡眠が長くなりやすい |
| 乳幼児から成人 | 発達に伴ってレム睡眠の割合が大きく減少する |
| 成人から高齢期 | 平均的にはレム睡眠割合が緩やかに変化するが個人差が大きい |
| 睡眠時刻の変更 | 体内時計との位置関係が変わり、レム睡眠の配置も変わり得る |
| 極端な暑さ・寒さ | 睡眠が不安定になり、レム睡眠が減少する場合がある |
| 夜勤・時差 | 体内時計と睡眠時間帯のずれによって分布や連続性が変わることがある |
レム睡眠の変化で注意したい状態
レム睡眠の割合そのものには自然な変動があります。しかし、睡眠の変化とともに次のような症状がある場合は、単なる時間・年齢・環境による変化だけではない可能性があります。
- 十分な睡眠時間を確保しても強い日中の眠気が続く
- 突然眠り込むことが繰り返される
- 夢に合わせるように大きく手足を動かし、けがをする
- 大きないびきや睡眠中の呼吸停止を指摘される
- 新しい薬を始めてから睡眠状態が大きく変わった
このような場合は、レム睡眠の量だけを自己判断するのではなく、症状全体について医療機関へ相談することが適切です。
よくある疑問
朝方に夢が多いのはレム睡眠が長いから?
朝方はレム睡眠が長くなりやすく、レム睡眠中は夢の報告率が高いため、その影響はあります。ただし夢はノンレム睡眠でも生じます。
高齢になるとレム睡眠はなくなる?
なくなりません。平均的には割合が変化しますが、高齢者でもレム睡眠は正常に現れます。
寒い部屋ではレム睡眠が減る?
寒さや暑さが強い環境では睡眠構造が乱れ、レム睡眠が減ることがあります。ただし、室温だけで決まるわけではなく、寝具や衣服なども影響します。
夜勤を続ければレム睡眠も完全に昼型へ移る?
必ずしもそうではありません。体内時計は勤務表だけでなく光や休日の生活時刻にも影響されるため、完全に夜勤へ適応しない人も多くいます。
まとめ
レム睡眠が時間帯・年齢・環境によって変化するのは、レム睡眠がノンレム睡眠との周期だけでなく、体内時計、睡眠圧、発達・加齢、体温調節など複数の仕組みによって調整されているためです。
一晩では夜の後半ほどレム睡眠が長くなりやすく、人生では乳幼児期に多く、成長とともに成人型へ変化します。さらに、睡眠時刻、夜勤や時差、暑さ・寒さなどの環境条件が変わると、レム睡眠の長さや配置も変わることがあります。
そのため、レム睡眠は「毎晩同じ割合になるべき」と考えるのではなく、時間・年齢・環境に応じて自然に変化する睡眠段階として理解することが大切です。
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参考資料
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「レム睡眠」
- National Heart, Lung, and Blood Institute “How Sleep Works – Sleep Phases and Stages”
- Meta-analysis of quantitative sleep parameters from childhood to old age in healthy individuals
- Aging and Circadian Rhythms
- The interaction between sleep and thermoregulation in adults and neonates

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