ノンレム睡眠は、一晩のあいだずっと同じ深さで続くわけではありません。眠り始めのころは深いノンレム睡眠が多く、朝方に近づくにつれて浅いノンレム睡眠が中心になります。また、子どもと高齢者では深い睡眠の割合が大きく異なり、室温や寝具などの環境も睡眠の安定性に影響します。
こうした変化が起こるのは、ノンレム睡眠が「一定の深さで固定された状態」ではなく、睡眠圧、体内時計、脳の発達・加齢、体温調節、睡眠環境など複数の仕組みによって調整されているからです。
つまり、ノンレム睡眠は時間・年齢・環境に応じて自然に変化する睡眠段階です。ここでは、一晩の中、人生の中、周囲の環境という三つの軸から、その変化の理由を整理します。
ノンレム睡眠は一晩の中でどう変化するの?
人の睡眠では、ノンレム睡眠とレム睡眠が何度か繰り返されます。厚生労働省のe-ヘルスネットでは、ノンレム睡眠は浅い段階から深い段階までに分かれ、夜の前半ほど深い徐波睡眠が多く、後半に進むにつれてノンレム睡眠の持続や徐波の出現が減ると説明されています。
米国国立心肺血液研究所(NHLBI)も、深いノンレム睡眠であるステージ3は通常、夜の早い時間帯に多く現れると説明しています。
そのため、同じ8時間睡眠でも、最初の数時間と朝方の数時間では、含まれるノンレム睡眠の深さが同じではありません。
なぜ夜の前半ほど深いノンレム睡眠が多いの?
大きな理由は、眠り始める時点で睡眠圧が最も高いからです。起きている時間が長くなるほど睡眠の必要性は高まり、夜に眠り始めるころには睡眠圧が大きくなっています。
この強い睡眠圧を反映して、睡眠前半では徐波活動が強く、深いノンレム睡眠が多く現れます。眠っている間に睡眠圧が少しずつ解消されると、夜の後半では徐波活動が弱まり、深い睡眠は減っていきます。
つまり、深いノンレム睡眠が前半に集まりやすいのは、単なる睡眠周期の順番ではなく、起きていた時間によって蓄積した睡眠圧を反映しているからです。
睡眠不足の後はノンレム睡眠も変わる?
変わります。睡眠不足があると睡眠圧が高まるため、その後の回復睡眠では深いノンレム睡眠や徐波活動が増えやすくなります。
e-ヘルスネットでは、入眠前の覚醒時間が長いほど、また覚醒中の身体運動や精神的負荷が大きいほど、ノンレム睡眠が長く、深くなる傾向があると説明されています。
ただし、「一晩短く眠ったら必ずN3が何分増える」という単純な関係ではありません。体内時計、寝る時刻、昼寝、年齢なども同時に影響します。
昼寝をすると夜のノンレム睡眠は変わる?
昼寝をすると、起きている間にたまっていた睡眠圧の一部が下がります。そのため、長い昼寝や遅い時間の昼寝をすると、夜に眠る時点の睡眠圧が普段より低くなり、深いノンレム睡眠が減ることがあります。
一方、強い睡眠不足がある場合には、短い昼寝をしても夜までに再び睡眠圧が高まることがあります。昼寝の影響は、長さ・時刻・前夜の睡眠量によって変わります。
したがって「昼寝をすれば必ず夜の深い睡眠が減る」とは限りませんが、睡眠圧を変える要因として考える必要があります。
年齢によってノンレム睡眠はどう変化するの?
ノンレム睡眠の構成は年齢によって大きく変化します。特に深いノンレム睡眠である徐波睡眠は、子どもや若年者で多く、年齢とともに減少する傾向があります。
厚生労働省のe-ヘルスネットでも、加齢とともに徐波睡眠が減少すると説明されています。
また、5歳から102歳までの健康な人を対象にした研究をまとめたメタ解析では、成人では年齢が上がるにつれて徐波睡眠の割合が低下し、浅い睡眠の割合や睡眠後の覚醒時間が増える傾向が示されています。
なぜ子どもは深いノンレム睡眠が多いの?
子どもや若年者では、脳の発達が活発で、睡眠脳波にも成人とは異なる特徴があります。成長期には徐波活動が強く、深いノンレム睡眠が多く現れます。
深いノンレム睡眠の量は、脳の成熟とともに変化します。思春期以降は徐波活動が大きく低下し、成人型の睡眠構造へ近づいていきます。
このため、成人の「深い睡眠の割合」をそのまま子どもへ当てはめることはできません。年齢ごとに正常な睡眠構造が異なります。
高齢になると深い睡眠はなくなるの?
なくなるわけではありません。高齢になると平均的には徐波睡眠が減りますが、高齢者でも深いノンレム睡眠は現れます。
また、加齢で最も目立つ変化は、深い睡眠の減少だけではありません。夜中に目覚める時間が増え、睡眠効率が下がり、睡眠全体が分断されやすくなることもあります。
同じ年齢でも睡眠状態には大きな個人差があるため、「高齢者だから深い睡眠はほとんどない」と決めつけることはできません。
体内時計もノンレム睡眠の時間変化に関係する?
関係します。ノンレム睡眠の深さには睡眠圧の影響が強い一方、睡眠をとる時刻は体内時計によっても調整されています。
普段の夜に眠る場合は、体内時計が睡眠に適した時間帯と睡眠圧の高さが重なります。しかし夜勤後の昼間など、体内時計が覚醒を促している時間帯に眠ろうとすると、睡眠が短くなったり分断されたりすることがあります。
その結果、ノンレム睡眠の総量や各段階の分布も、通常の夜間睡眠とは異なることがあります。
温度環境でノンレム睡眠は変わるの?
変わります。睡眠と体温調節は強く結びついています。睡眠と体温のレビューでは、人は眠りに入る前に深部体温が下がり始め、ノンレム睡眠への移行とともに脳や体の温度も低下することがまとめられています。
また、皮膚を適度に温めることで末梢血管が広がり、体の中心から熱を逃がしやすくなり、ノンレム睡眠への移行を助ける可能性が示されています。
ただし、暑すぎる・寒すぎる環境では睡眠が不安定になり、途中覚醒が増えることがあります。ノンレム睡眠を増やすために単純に室温を上げればよいということではありません。
寝具や寝床内の温度も影響する?
影響します。人は眠るとき、布団や衣服によって皮膚の周囲に比較的暖かい小さな環境を作ります。これによって末梢の皮膚温が上がり、体の中心部から熱を逃がしやすくなります。
一方、寝具が暑すぎて汗をかく、逆に寒くて体が冷え続けるような状態では、睡眠が分断されやすくなります。
睡眠環境に関するレビューでも、温度や寝具の熱特性は睡眠時間や睡眠の質に関係する要因として扱われています。
光の環境はノンレム睡眠に直接影響するの?
光は、ノンレム睡眠を直接増減させる単純なスイッチではありません。しかし、体内時計と睡眠時刻を動かすことで、間接的にノンレム睡眠の現れ方へ影響します。
夜遅くまで強い光を浴びて就寝時刻が遅れると、睡眠時間そのものが短くなったり、体内時計と生活時刻のずれが大きくなったりします。その結果、一晩の睡眠構造も変化します。
特に朝の起床時刻が固定されたまま就寝だけ遅くなると、睡眠前半の深いノンレム睡眠はある程度保たれても、睡眠全体の時間が短くなり、翌日の睡眠圧が高まりやすくなります。
夜勤や時差でもノンレム睡眠は変わる?
夜勤や時差のある旅行では、眠る時刻と体内時計がずれます。そのため、睡眠が短くなったり、途中で目覚めやすくなったりし、結果としてノンレム睡眠の分布も変わります。
ただし、深いノンレム睡眠には睡眠圧の影響が強いため、強い睡眠不足があれば、普段と違う時刻に眠っても深い睡眠が現れることがあります。
つまり、夜勤では「体内時計が昼だからノンレム睡眠が出ない」というわけではありません。睡眠圧と体内時計の両方が関わるため、睡眠の長さ・深さ・連続性が複雑に変わります。
運動した日は深いノンレム睡眠が増える?
運動や日中の活動は、睡眠圧や体温調節を通じて夜の睡眠に影響します。e-ヘルスネットでは、覚醒中の身体運動量が多いとノンレム睡眠が深くなることがあるとされています。
ただし、運動の効果は強度、時間帯、普段の運動習慣、睡眠不足の程度などによって変わります。激しい運動をすれば必ず深い睡眠が増える、という単純な関係ではありません。
精神的に疲れた日もノンレム睡眠は変わる?
精神的な負荷も睡眠に影響します。e-ヘルスネットでは、覚醒中の精神負荷が増えるとノンレム睡眠が深くなることがあると説明されています。
一方で、強いストレスや不安があると寝つきが悪くなったり、途中覚醒が増えたりして、睡眠全体の連続性が悪くなることもあります。
そのため、「頭を使った日は必ず深く眠れる」とは限らず、睡眠圧を高める要因と、覚醒を高めるストレス反応の両方を考える必要があります。
時間・年齢・環境による変化を整理すると
| 変化する条件 | ノンレム睡眠にみられる主な傾向 |
|---|---|
| 夜の前半から後半 | 前半ほど深い徐波睡眠が多く、後半ほど減りやすい |
| 睡眠不足 | 睡眠圧が高まり、その後の深いノンレム睡眠が増えやすい |
| 子どもから成人 | 成長とともに徐波睡眠の割合が減少する |
| 成人から高齢期 | 深い睡眠が減り、浅い睡眠や夜間覚醒が増える傾向がある |
| 暑すぎる・寒すぎる環境 | 睡眠が不安定になり、途中覚醒や睡眠構造の変化が起こり得る |
| 夜勤・時差 | 体内時計と睡眠時刻のずれにより、睡眠の長さや分布が変わることがある |
ノンレム睡眠が変化したら「睡眠の質が悪い」の?
一晩の深いノンレム睡眠が多い・少ないというだけでは、睡眠の質を判断できません。睡眠不足後には深い睡眠が増えることがありますし、年齢が上がれば自然に減る傾向があります。
また、健康な睡眠は深いノンレム睡眠だけで構成されているわけではありません。浅いノンレム睡眠、レム睡眠、短い覚醒を含む複数の状態が周期的に現れることが大切です。
家庭用のスマートウォッチなどで表示される「深い睡眠」も、脳波を測る医療用睡眠検査と同じ方法で直接判定しているとは限りません。一晩の数値だけで異常と判断しないことが重要です。
注意したいのは睡眠全体の変化
ノンレム睡眠の変化には自然な範囲がありますが、次のような状態が続く場合は、単なる時間・年齢・環境による変化だけではない可能性があります。
- 十分な睡眠時間をとっても強い日中の眠気が続く
- 大きないびきや睡眠中の呼吸停止を指摘される
- 何度も夜中に目が覚め、日中生活に支障がある
- 痛みや頻尿で睡眠が繰り返し分断される
- 新しい薬を使い始めてから睡眠状態が大きく変わった
このような場合は、「深い睡眠が少ない」と自己判断するのではなく、睡眠全体の状態について医療機関へ相談することが適切です。
よくある疑問
夜の前半の方が深く眠れるの?
一般的にはそうです。長時間の覚醒で高まった睡眠圧を反映し、深いノンレム睡眠は夜の前半に多く現れます。
高齢になると深い睡眠はなくなる?
なくなりません。平均的には減少しますが、高齢者でも深いノンレム睡眠は現れます。
暖かい部屋ほどノンレム睡眠が増える?
適度な皮膚の温かさは入眠を助けることがありますが、暑すぎる環境では睡眠が乱れます。単純に室温を上げればよいわけではありません。
夜勤中に昼間眠ると深い睡眠は出ない?
いいえ。強い睡眠圧があれば深いノンレム睡眠は現れます。ただし、体内時計とのずれで睡眠全体が短くなったり分断されたりすることがあります。
まとめ
ノンレム睡眠が時間帯・年齢・環境によって変化するのは、睡眠圧、体内時計、脳の発達・加齢、体温調節、睡眠環境など複数の仕組みによって調整されているためです。
一晩では前半ほど深いノンレム睡眠が多く、後半になるにつれて徐波活動は減少します。人生では子どもや若年者に深い睡眠が多く、加齢とともに減る傾向があります。さらに、暑さ・寒さ、寝具、光、夜勤や時差などの環境条件によっても睡眠の長さや安定性が変わります。
そのため、ノンレム睡眠は毎晩同じ量・同じ深さになるものではありません。時間・年齢・環境によって自然に変化する睡眠段階として理解することが大切です。
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参考資料
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「ノンレム睡眠」
- National Heart, Lung, and Blood Institute “How Sleep Works – Sleep Phases and Stages”
- Meta-analysis of quantitative sleep parameters from childhood to old age in healthy individuals
- Sleep and thermoregulation
- Sleep environments and sleep physiology: A review

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