果物はどれも水分を多く含みますが、その割合は一律ではありません。みずみずしい果物でも、種類や品種、熟度、栽培中の水分条件、果実の大きさ、収穫後の保存状態によって、水分量や水分の感じ方は変わります。
この違いを生むのは、果実へ入る水の量だけではありません。木部・師部からの水の流入、糖や有機酸などの乾物蓄積、果皮からの蒸散、細胞や液胞に水を保持する能力、果実の肥大速度などが組み合わさっています。
つまり果物の水分の違いは、水の流入と流出 × 果実の成長 × 乾物蓄積 × 品種・環境のバランスで決まります。
結論:果物の水分量は、水収支と乾物蓄積の比率が種類や条件で違うため変わる
果物の水分量に差が生まれる主な理由は、次のように整理できます。
- 果物の種類によって果皮の厚さや水の失いやすさが違う
- 品種によって果実肥大、糖蓄積、水分保持能力が違う
- 成熟に伴って水分量や乾物率が変化する
- 栽培中の水分条件で果実への水流入が変わる
- 果実サイズが変わると、水と乾物の比率も変わる
- 収穫後は湿度・温度・包装条件によって蒸散量が変わる
したがって、「水分が多い果物」「水分が少ない果物」という違いは、根から吸った水の量だけで説明できません。
果物の水分率は「水の量」と「乾物の量」の比率で決まる
食品として表示される水分率は、果実全体の重さに対して水がどれだけ占めるかを示します。
果実には水のほかに、糖、有機酸、食物繊維、タンパク質、脂質、ミネラルなどの乾物が含まれています。
そのため、水の絶対量が増えていても乾物がさらに多く増えれば水分率は下がることがあります。逆に、乾物蓄積が少なく水が多く入れば水分率は高くなります。
水分の違いを見るときは、「何gの水があるか」と「果実重量の何%が水か」を区別する必要があります。
果物の種類によって水分量が違うのは、果実構造が違うから
果物には、ベリー、核果、ナシ状果などさまざまな構造があります。
果皮の厚さ、クチクラの発達、果肉細胞の大きさ、液胞の割合、維管束の配置などが異なるため、水を取り込む速度と失う速度も違います。
多数の植物種を比較した研究では、成熟時に多汁質な果実では高い水分状態が維持される一方、乾果では発達に伴って水分が大きく低下し、果皮の木質化や表面積との関係が乾燥性に影響することが示されています。
食用の多汁質果実の中でも、果皮の透水性や果肉の厚さが異なるため、最終的な水分率には差が生じます。
品種によっても水分量は違う
同じ種類の作物でも、品種によって水分と乾物のバランスが異なることがあります。
農研機構のトマト品種比較では、品種改良の過程で糖度を高めながら果実の水分含量を高く維持した系統があることが示されています。
これは、高糖度にする方法が単純な「水分を減らして濃縮する」だけではなく、糖をより多く蓄積しながら水分も保てる品種特性が存在することを示します。
つまり品種差には、水を取り込む能力、果実へ乾物を配分する能力、細胞の水分保持能力など複数の遺伝的性質が関わります。
果実の大きさが違うと、水分率も変わることがある
果実が大きくなるとき、細胞数の増加と細胞の肥大が起こります。
細胞肥大では液胞へ水が大量に入るため、発育期には果実重量の増加の多くを水が占める場合があります。
一方で、糖や細胞壁成分などの乾物も同時に蓄積します。
水の増加速度と乾物の増加速度が同じでなければ、発育中の水分率は変化します。そのため、大きい果実だから必ず水分率が高い、あるいは低いとは言えません。
熟度が違うと水分状態が変わるのはなぜ?
果実は成熟中に、糖蓄積、細胞壁の軟化、浸透圧の変化、蒸散、水輸送などを同時に変化させます。
2012年の研究では、複数の果実で成熟開始前後に組織水分が低下する現象が観察され、細胞壁の水和状態の変化との関係が検討されています。
一方、別の果実では成熟の進行中に水分低下が続くものもあれば、途中で再び増えるものもありました。
したがって「熟すほど水分が減る」あるいは「熟すほど水分が増える」と一律には言えません。果物ごとに成熟中の水収支が異なります。
糖が増えると、水分率は必ず下がる?
成熟中に糖が増える果実では乾物量が増えるため、他の条件が同じなら水分率を下げる方向に働きます。
しかし、糖が果実細胞に蓄積すると浸透ポテンシャルも低下し、水を取り込みやすくなる面があります。
そのため、糖蓄積と水分蓄積は単純な反対関係ではありません。
高糖度でもみずみずしい品種が存在するのは、糖の蓄積能力と水分保持能力を同時に高められる場合があるためです。
栽培中の水分条件で、果実の水分量は変わる
土壌水分や灌水量が変わると、植物体の水ポテンシャルや果実への水流入が変化します。
水が十分にある条件では、果実へ水が流入しやすく、細胞肥大が進みやすくなります。一方、水ストレスがかかると果実への水流入が減り、果実サイズが小さくなることがあります。
ただし、水分を減らせば果実水分率が必ず低くなるわけではありません。師部からの水輸送、糖蓄積、蒸散の変化も同時に起こるからです。
果実の水分状態は、土壌水分だけでなく植物全体の水輸送と炭素配分の結果です。
木部と師部の水輸送の割合も条件によって変わる
果実へ入る水は、根から主に水を運ぶ木部だけでなく、糖を運ぶ師部からも供給されます。
国内のトマト果実の水収支研究では、十分な水分条件では果実へ集積する水の大きな割合が師部輸送に由来し、水ストレス条件では木部の流れが大きく変化する一方、師部流は比較的維持されました。
このため、栽培条件による果実水分の差を考えるときは、根からの水供給だけでなく、糖輸送に伴う師部水流も重要です。
果皮の性質が、水分を失いやすいかどうかを決める
果実は生育中も収穫後も、果皮から水蒸気を失います。
クチクラが厚く水蒸気を通しにくい果実は、水分を保持しやすくなります。反対に、表面積が大きい、小さい果実、果皮の透過性が高い果実、傷のある果実では、水分損失が速くなる場合があります。
果実の種類による水分差は、内部へ水を運ぶ能力だけでなく、外へ水を失わない能力にも左右されます。
果実の表面積と体積の比も水分損失に関係する
小さい果実は、大きい果実に比べて重量当たりの表面積が大きくなる傾向があります。
表面積が大きいほど、同じ果皮特性なら水分を失う面積も相対的に大きくなります。
多数の植物種を比較した研究でも、果実サイズや表面積と乾燥に要する期間との関係が確認されています。
ただし、実際の水分損失にはクチクラの厚さや果皮構造も強く影響するため、サイズだけで日持ちを判断することはできません。
収穫すると、果物は基本的に水を失う方向へ進む
収穫前の果実は、親植物から木部・師部を通じて水の供給を受けられます。
収穫するとこの供給はほぼ止まりますが、果皮からの蒸散は続きます。そのため、収穫後の果実は基本的に水分を失う方向へ進みます。
水分損失が進むと、重量減少、しなび、果皮のしわ、果肉の張り低下が起こります。
収穫後の水分差は、収穫時の初期水分だけでなく、その後にどれだけ蒸散したかによって大きく変わります。
保存湿度が違うと、水分の減り方が変わる
果物の周囲の湿度が低いと、果実内部と空気との水蒸気圧差が大きくなり、水分が速く失われます。
高い相対湿度で保存すると、この差を小さくできるため、蒸散による重量減少やしなびを抑えやすくなります。
2025年のレビューでは、高湿度保存は収穫後青果物の水分損失を抑え、細胞構造や外観などの品質保持に役立つと整理されています。
ただし、湿度が高すぎて表面に結露が生じると腐敗リスクが高まるため、湿度は高ければ高いほどよいわけではありません。
温度も、水分損失の速さに影響する
温度が高いと、空気が保持できる水蒸気量が増え、果実表面と周囲との水蒸気圧差も大きくなりやすくなります。
また、果実の呼吸や老化が速まり、果皮や細胞膜の状態も変化します。
低温保存は代謝を遅らせるだけでなく、適切な湿度管理と組み合わせることで水分損失を抑えるのにも役立ちます。
ただし、低温に弱い果物では低温障害が起こるため、果物ごとの適温が必要です。
包装すると、水分量が保たれやすくなるのはなぜ?
フィルムや袋で包装すると、果実の周囲に水蒸気がたまり、局所的な湿度が高くなります。
その結果、果実と周囲の空気との水蒸気圧差が小さくなり、蒸散が遅くなります。
包装は水分保持に有効ですが、密閉しすぎると結露や低酸素状態が起こることがあります。
そのため、包装材の水蒸気透過性やガス透過性、保存温度を果物に合わせる必要があります。
「みずみずしく感じる」と「水分率が高い」は同じではない
食べたときのみずみずしさは、分析上の水分率だけで決まりません。
細胞がどれだけ膨圧を保っているか、果肉がどの程度壊れやすいか、噛んだときに果汁がどれだけ放出されるかによって、口の中で感じる水分感が変わります。
水分率が近い二つの果物でも、細胞壁や組織構造が違えば、一方をよりジューシーに感じることがあります。
したがって、水分量と食感としてのみずみずしさは関連しますが、同じ指標ではありません。
高糖度と高水分は両立できる
「甘い果実は水分が少なく濃縮されている」と考えられることがありますが、必ずしもそうではありません。
農研機構のトマト品種比較では、果実水分を高く維持しながら糖度を高めた系統が示されています。
糖を多く蓄積できれば、水分を大きく減らさなくても高糖度にできます。
つまり甘さと水分の関係は、単なる希釈・濃縮だけではなく、果実へどれだけ糖と水を同時に運び込めるかという品種特性にも左右されます。
まとめ
果物の水分が種類、熟度、栽培条件によって違うのは、水の流入・保持・損失と乾物蓄積のバランスが一律ではないからです。
果物の種類や品種によって、果皮構造、果実肥大、糖や乾物の蓄積、水分保持能力が異なります。成熟中には水分状態も変化し、そのパターンは果物ごとに同じではありません。
栽培中の水分条件は木部・師部からの水流入を変え、収穫後は湿度、温度、包装条件が蒸散による水分損失を左右します。
つまり果物の水分の違いは、品種・果実構造 × 発育・熟度 × 栽培中の水収支 × 収穫後の蒸散によって生まれているのです。
参考資料
- 農研機構:日本のトマト品種改良は多収化させず、果実糖度を高めて水分含量は維持した
- 生物環境調節:トマト果実の生長、水収支および師管と道管を通した汁液フラックスの動的解析
- Water Content Variation Patterns of Fruits During Development and Their Effects on Fleshiness or Dryness for Fruits at Maturity
- Recent advances in high relative humidity strategy for preservation of postharvest fruits and vegetables

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