なぜ果物の種の数や有無は種類・品種・受粉条件で違うのか?

果物の中にある種は、種類によって数も大きさも大きく違います。モモやサクランボのように大きな種が一つ目立つ果物もあれば、リンゴやナシのように複数の種が入る果物、ブドウやスイカのように品種や栽培方法によって種あり・種なしが変わる果物もあります。

この違いは、単に「その果物は種が多い種類だから」で決まるわけではありません。花の中に何個の胚珠があるか、花粉が十分に届いたか、受精が成立したか、受精後に胚や胚乳が正常に発達したか、品種固有の遺伝的特性や植物ホルモンがどう働いたかによって、最終的な種の数と有無が変わります。

つまり果物の種の違いは、花の構造 × 受粉・受精 × 種子発達 × 品種特性 × 栽培条件の組み合わせで決まります。

目次

結論:果物の種の数や有無は、胚珠の数と受精・発達の成功率で変わる

果物の種に違いが生まれる主な理由は、次のように整理できます。

  • 種類によって一つの花が持つ胚珠の数が違う
  • 品種によって受粉・受精しやすさが違う
  • 花粉の量や相性、開花時の気温などで受精率が変わる
  • 受精しても胚や胚乳が途中で退化することがある
  • 受精しなくても果実が育つ単為結果がある
  • ジベレリンなどの植物成長調節剤で種なし化できる果物がある
  • 種子の数が果実肥大や形に影響する場合もある

したがって、「種あり」「種なし」は一つの仕組みだけで決まる性質ではありません。

最初の違いは、花の中にある胚珠の数

種子は、花の子房内にある胚珠が受精後に発達したものです。

そのため、一つの花が最初から持っている胚珠の数が少なければ、できる種子数にも上限があります。逆に、多数の胚珠を持つ花では、受精条件がよければ多くの種子ができる可能性があります。

果物の種類ごとに子房の構造や胚珠数が異なるため、大きな一核を持つ果実、数個の種を持つ果実、多数の種を持つ果実という違いが生まれます。

つまり、種子数の「設計上の上限」は、受粉より前の花の段階ですでにある程度決まっています。

胚珠があっても、すべてが種になるとは限らない

花の中に複数の胚珠があっても、すべてが必ず成熟種子になるわけではありません。

まず花粉が柱頭に付着し、花粉管が伸びて胚珠まで到達する必要があります。その後、精細胞と卵細胞の受精、精細胞と中央細胞の受精が正常に成立しなければなりません。

さらに受精後も、胚と胚乳が正常に発達し、母植物から糖や窒素などの資源を受け取り続ける必要があります。

このどこかで発達が止まれば、胚珠は成熟種子にならず、種子数は少なくなります。

受粉量が違うと、種子数が変わることがある

多くの果樹では、十分な花粉が柱頭へ届くことが安定した結実と種子形成に重要です。

訪花昆虫が少ない、開花期に雨が続く、低温や高温で花粉の発芽や花粉管伸長が悪くなると、受精できる胚珠が減ることがあります。

海外の種子・果実形成レビューでも、受粉後の受精と初期の種子・果実形成は環境ストレスに敏感で、種子や幼果の退化につながることが整理されています。

そのため、同じ品種でも年や園地によって一果あたりの種子数が変わる場合があります。

花粉には「相性」がある

果樹の中には、自分自身の花粉では受精しにくい自家不和合性を持つものがあります。

リンゴやナシ、サクランボなどでは、品種の組み合わせによって受粉・受精の成立率が変わるため、相性のよい受粉樹を植えることが重要です。

適合しない花粉では、花粉が発芽しても花粉管の伸長が途中で止まり、胚珠まで精細胞を届けられないことがあります。

このような受粉相性の違いも、最終的な種子数と結実の安定性に影響します。

品種によって種ができやすい・できにくい違いがある

同じ果物でも、品種によって受精しやすさや種子発達の安定性は異なります。

大粒系ブドウを比較した国内研究では、ジベレリンを処理しなくても有核果粒率が低い品種があり、もともと受精が成立しにくい性質があることが示されています。

このような品種では、少しの処理条件の違いでも種なし化しやすくなります。

つまり「種ができる能力」そのものにも品種差があります。

種なし果実には、大きく二つの成り立ちがある

種なし果実は、すべて同じ仕組みでできるわけではありません。

一つは単為結果で、受精しなくても子房が成長して果実になるタイプです。この場合、正常な受精を経ないため、基本的に成熟種子はできません。

もう一つは、受精自体はいったん起こるものの、胚や種子組織が途中で退化するタイプです。ブドウなどで見られるこの仕組みは、ステノスペルモカルピーと呼ばれます。

そのため、「種なし=受粉も受精もしていない」と考えるのは正確ではありません。

単為結果では、受精の代わりにホルモンが果実成長を始める

通常、受精が成立するとオーキシンやジベレリンなどの植物ホルモンシグナルが変化し、子房が果実として成長し始めます。

単為結果では、このホルモンシグナルが受精なしでも十分に活性化されます。

近年のレビューでは、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニンが単為結果の誘導で中心的な役割を持つことが整理されています。

自然な遺伝特性として単為結果する品種もあれば、植物成長調節剤を利用して人工的に果実成長を促す場合もあります。

ブドウは栽培処理で種なしにできる代表例

日本の大粒ブドウでは、もともとは種ありの品種でも、ジベレリン処理によって種なし果実として生産されるものが多くあります。

農研機構の品種情報でも、「巨峰」「ピオーネ」や複数の育成品種が、適切なジベレリン処理によって種なし栽培できることが示されています。

最近の国内研究では、大粒系ブドウでは受精しにくい品種特性に加え、満開期前後のジベレリン処理が無核化を安定させることが整理されています。

つまり店頭で見る「種なしブドウ」は、種なし専用品種だけでなく、栽培技術によって種なし化した果実も含まれます。

ジベレリン処理の時期によって役割が違う

ブドウの種なし栽培では、処理時期によって目的が変わります。

開花期前後の処理は無核化に関係し、その後の処理は果粒肥大を促す目的で利用されます。

農研機構の新品種情報でも、満開時から数日後の処理を種なし化に、その後の処理を果粒肥大に利用する例が示されています。

このように、種の有無と果実の大きさは別々の発生過程ですが、植物ホルモン処理によって両方を調整できる場合があります。

受精しても種が途中で小さくなることがある

種なしブドウの中には、果実内をよく見ると小さな種子痕が残るものがあります。

これは受精後に胚や胚乳がある程度発達したものの、その後の発達が止まった結果です。

種なし性のレビューでは、ステノスペルモカルピーでは胚形成が始まった後に発達が停止するため、完全に種組織が存在しない単為結果とは区別されます。

同じ「種なし」という見た目でも、内部の発生過程は異なるのです。

種子数は果実の大きさや形にも影響することがある

発達中の種子は、単に次世代を作るだけでなく、オーキシンやジベレリンなどの成長シグナルの供給源にもなります。

そのため、受精して発達する種子が多いほど、周囲の果肉組織の成長を強く促す場合があります。

リンゴやナシなどでは、種子の偏りが果実形の左右差に関係することもあります。

ただし、種子数が多ければ常に大きい果実になるわけではありません。葉からの同化産物供給、着果数、水分条件なども同時に影響します。

種の大きさが違うのは、胚乳・子葉・種皮の発達が違うから

果物によって種子の大きさが違うのは、受精後に発達する組織の割合が異なるためです。

成熟種子の中では、胚が大きく発達して子葉へ栄養を蓄えるタイプもあれば、胚乳が多く残るタイプもあります。また、種皮や硬い内果皮が目立つ果物もあります。

さらに、一果の中で多数の種子を作る植物と、少数の種子へ多くの資源を配分する植物では、一粒あたりの大きさも違いやすくなります。

種子サイズは、遺伝的な発生設計と母植物からの資源配分の両方で決まります。

高温や低温で種子数が減ることがある

受粉・受精の時期は、温度ストレスに敏感です。

極端な高温や低温では、花粉形成、花粉発芽、花粉管伸長、胚珠の生存、初期胚発生が阻害される場合があります。

その結果、花は咲いても受精胚珠が少なくなり、種子数や結実率が低下することがあります。

近年の単為結果研究でも、気温や光不足などによる受粉・受精不良が果実生産を不安定にする要因として挙げられています。

訪花昆虫の量も、種子形成へ影響する

虫媒花では、ミツバチなどの訪花昆虫が十分に花粉を運ぶことが重要です。

訪花回数が少ないと、柱頭へ届く花粉量や花粉の多様性が不足し、受精できる胚珠数が減ることがあります。

特に一つの果実の中に多数の胚珠を持つ植物では、十分な花粉が届くことが多くの種子形成につながります。

そのため、同じ品種でも受粉環境の違いが種子数の差として現れる場合があります。

「種が少ない=品質が悪い」とは限らない

自然界では種子は繁殖に重要ですが、食用果実では種が少ないことが消費者に好まれる場合があります。

ブドウやスイカ、カンキツなどでは、種なし・少種子性が重要な品種特性として利用されています。

一方、種子由来のホルモンが果実肥大を助ける作物では、種なし化によって果粒が小さくなりやすく、植物成長調節剤で肥大を補う場合があります。

したがって、種の少なさは単独で品質の良し悪しを決めるものではなく、果実サイズや食味、栽培性との組み合わせで評価されます。

家庭で見かける種の違いには、遺伝と栽培技術の両方が含まれる

店頭で「種なし」と表示されている果物を見ても、その成り立ちは一種類ではありません。

もともと種なし性を持つ品種、受精後に胚が退化する品種、単為結果する品種、植物成長調節剤で種なし化した果実などがあります。

逆に同じ品種でも、栽培方法や受粉条件によって種が入る場合と入りにくい場合があります。

果物の種の違いは、植物の遺伝的な仕組みと人の栽培技術が重なった結果でもあります。

まとめ

果物の種の数や有無が種類・品種・条件によって違うのは、花が持つ胚珠数、受粉・受精の成立率、受精後の胚・胚乳発達、品種固有の種子形成能力が異なるからです。

さらに、気温、花粉量、受粉相性、訪花昆虫などが受精胚珠数を変えます。受精しなくても果実が育つ単為結果や、受精後に胚が退化する仕組みによって、種なし果実ができる場合もあります。

ブドウのように、もともと種ありの品種でもジベレリン処理によって種なし生産できる果物もあります。

つまり果物の種の違いは、花の構造 × 品種特性 × 受粉・受精 × 種子発達 × 環境・栽培技術によって生まれているのです。

参考資料

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