なぜ土の養分は場所や条件によって違うのか?

結論から言うと、土の養分に場所や条件による違いがあるのは、土のもとになる母材、粘土や腐植の量、pH、水分、微生物の働き、地形、施肥や堆肥の履歴などが場所ごとに異なり、養分の「供給・保持・流出・固定・吸収」のバランスが変わるからです。同じ地域の畑でも、ある場所では窒素が多く供給され、別の場所ではリンが利用しにくく、また別の場所ではカリウムやカルシウムが流れやすいことがあります。

つまり、土の養分量は「最初から何が入っていたか」だけで決まるわけではありません。植物が使える形へ変わる速さ、土粒子に保持される強さ、雨水で失われる量、作物に吸収されて持ち出される量などが常に変化しています。そのため、土壌診断では総量だけでなく、可給態窒素、可給態リン酸、交換性カリウム・カルシウム・マグネシウム、pH、CECなどを調べます。

目次

まず「土の養分の違い」とは何を比べているのか

植物に必要な養分には、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、鉄、マンガン、亜鉛などがあります。

しかし、土の中に元素として存在していても、そのすべてを植物がすぐ利用できるわけではありません。養分には、土壌水に溶けて根が吸収しやすい形、粘土や腐植の表面に保持された形、有機物の中に組み込まれた形、鉱物や難溶性化合物として固定された形などがあります。

農研機構は、土壌診断で可給態窒素や可給態リン酸を測ることを重視しています。これは、土に含まれる総量ではなく、栽培期間中に植物へ供給されやすい量を見る必要があるからです。

したがって場所による養分差とは、単なる「元素の総量の差」だけでなく、植物が利用できる状態の養分がどれだけあるかという差でもあります。

母材が違うと最初の養分条件が変わる

土壌の出発材料となる岩石、火山灰、河川堆積物などを母材と呼びます。

母材に含まれる鉱物が違えば、風化によって供給されるカルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄などの量も変わります。たとえば塩基性成分を多く含む鉱物が風化する場所では、それらの養分が比較的供給されやすい場合があります。

一方、火山灰由来の黒ボク土では、活性アルミニウムを含む鉱物が多く、リン酸を強く吸着しやすい特徴があります。そのため、リン自体が土に存在していても、植物が利用できる可給態リン酸が少なくなることがあります。

つまり、同じ量の肥料を加えても、母材や土壌鉱物が違えば養分の残り方や使われ方は同じになりません。

粘土と腐植の量で養分を保持する力が違う

カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムなどは、正の電荷を持つ陽イオンです。

粘土や腐植の表面には負の電荷を持つ場所があり、そこへ陽イオンが引きつけられて保持されます。この保持能力を陽イオン交換容量(CEC)と呼びます。

USDA Natural Resources Conservation Service(NRCS)は、CECが土壌の陽イオンを保持する能力の指標であり、粘土や有機物が交換部位を提供すると説明しています。CECの小さい砂質土では、カリウムやカルシウムなどを保持できる量が小さく、雨の多い条件では流亡しやすくなります。

一方、粘土や腐植を多く含む土では、陽イオンを一時的に保持しておけるため、根が吸収した後に土壌水へ再び供給する「養分の貯蔵庫」として働きます。

硝酸はなぜ場所によって失われやすさが違うのか

窒素の中でも硝酸態窒素は、水に溶けやすく、土壌水とともに移動しやすい養分です。

多くの土壌の交換部位は負に帯電しているため、同じく負の電荷を持つ硝酸イオンは強く保持されません。そのため、大雨や過剰灌水があると根の届く範囲より下へ流れやすくなります。

砂質土では大きな孔隙が多く、水が速く通過するため、硝酸の流亡が起こりやすい場合があります。粘土質土でも亀裂や大きな孔隙が発達していれば、そこを通って速く移動することがあります。

つまり窒素の残り方は、土性だけでなく、降雨量、灌水量、根の深さ、施肥時期などによっても変わります。

窒素は微生物の働きで供給量が変わる

土壌中の窒素の多くは、有機物の中に有機態窒素として存在します。そのままでは多くの植物が直接利用できないため、微生物による分解が必要です。

細菌や菌類が有機物を分解すると、窒素の一部がアンモニウムなど植物が利用しやすい無機態へ変わります。この過程を無機化と呼びます。

農研機構は、畑土壌由来の可給態窒素を評価する際、土壌の可給態窒素量だけでなく、地温や栽培期間などを考慮しています。これは、微生物による窒素供給速度が温度などの条件によって変わるためです。

暖かく適度に湿った土では分解が進みやすい一方、低温、乾燥、過湿による酸素不足などでは反応が遅くなることがあります。同じ土でも季節や水分条件によって窒素供給量が変わるのです。

リンは土壌の種類とpHによって利用しやすさが変わる

リンは硝酸のように簡単に水とともに流れる養分ではありません。むしろ、土壌中の鉄、アルミニウム、カルシウムなどと反応し、植物が利用しにくい形になることがあります。

酸性土壌では鉄やアルミニウムとの反応が強まり、リン酸が固定されやすくなる場合があります。一方、アルカリ性が強い土ではカルシウムと反応して難溶化する場合があります。

USDA NRCSは、土壌pHがリンを含む多くの養分の溶解性と植物利用性に影響するとしています。

このため、同じリン肥料を同じ量だけ施しても、土壌pHや鉱物組成が違えば、作物が利用できるリン酸量は異なります。

pHが違うと養分全体の利用性が変わる

土壌pHは、養分の溶けやすさ、鉱物への吸着、微生物の活動などを変えます。

酸性が強い土では、カルシウムやマグネシウムなどの塩基性成分が少なくなりやすく、アルミニウムやマンガンが溶けやすくなることがあります。リンも固定されやすくなります。

反対にpHが高すぎると、鉄、マンガン、亜鉛などの微量要素が溶けにくくなり、植物が利用しにくくなる場合があります。

そのため養分量が十分でも、pHが適正範囲から外れると「養分はあるのに植物が吸えない」という状態が起こります。場所による養分差を比べるときには、分析値だけでなくpHも同時に見る必要があります。

雨の量で養分の流亡量が変わる

雨水が土の中を通ると、水に溶けた養分の一部は下方へ移動します。

特に硝酸、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどは、条件によって根域より下へ移動しやすくなります。降雨量が多い地域では、長期的に塩基成分が溶脱し、土壌が酸性化することもあります。

一方、乾燥地域では水の下方移動が少なく、塩類が土壌中に残りやすい場合があります。

つまり気候の違いは、養分を「作る」だけでなく、土から「失う」速度も変えています。

地形によって養分が集まる場所と失われる場所ができる

斜面では、雨によって表土が移動します。

斜面上部では、腐植や粘土を多く含む表土が侵食されると、それに保持されていた窒素、リン、カリウムなども一緒に失われます。

一方、斜面下部や窪地では、上部から運ばれた細かな土粒子や有機物が堆積し、養分が集まりやすくなることがあります。

このため同じ畑の中でも、斜面上部と下部で土壌分析値が異なる場合があります。養分分布は、施肥量だけでなく、侵食と堆積の履歴も反映します。

作物の種類で土から持ち出される養分が違う

作物は種類によって必要とする養分量や吸収のしかたが異なります。

収穫物として植物体をほ場外へ持ち出せば、その中に含まれる窒素、リン、カリウムなども土壌系から失われます。

農研機構の大分県水田のモニタリングでは、水稲単作と水稲・麦・大豆などを組み合わせた輪作体系で土壌化学性に差が見られ、輪作体系では可給態窒素や可給態リン酸などが低下する傾向が示されています。これは、作付け体系によって養分の持ち出しや循環が変わる例です。

つまり、同じ場所でも何を何年間栽培してきたかによって、土壌養分は変化します。

堆肥や有機物を入れた場所では養分状態が変わる

堆肥や作物残さなどの有機物には、窒素、リン、カリウムなどが含まれています。

それらが分解されると、養分の一部が植物に利用できる形になります。また有機物が増えるとCECや団粒形成にも影響し、養分保持力や水分環境が変わることがあります。

農研機構の大分県水田の調査では、堆肥を施用したほ場で、施用しなかったほ場より可給態窒素、可給態リン酸、ECが高くなる傾向が確認されています。

そのため、隣り合うほ場でも堆肥施用の有無や量が違えば、数年後には養分状態に差が生まれることがあります。

肥料を同じ量入れても結果が同じにならないのはなぜか

肥料の効き方は、土壌条件によって変わります。

CECの小さい砂質土では、カリウムなどを一度に多量施用すると、作物が吸収する前に流亡する可能性があります。USDA NRCSは、低CEC土壌では少量をより頻繁に施す管理が適する場合があるとしています。

リンでは、固定の強い土壌に施すと可給態になりにくい場合があります。窒素では、土壌からの無機化供給量が多いほ場なら、肥料を減らしても十分な場合があります。

このため「作物が同じなら肥料量も同じ」でよいとは限らず、土壌診断に基づいて場所ごとに調整することが重要です。

深さによって養分量が違うこともある

同じ地点でも、表土と下層土では養分状態が異なります。

肥料や堆肥は主に地表近くへ施され、植物残さや根由来の有機物も表層に多いため、窒素やリンなどが表層へ集積しやすい場合があります。

一方、硝酸やカルシウムなど水とともに動きやすい成分は下層へ移動することがあります。また根の深い植物は、下層から養分を吸い上げます。

そのため土壌診断では、採取する深さをそろえないと分析値を正しく比較できません。「場所の違い」に見えて、実は採土深の違いという場合もあります。

土壌診断が場所ごとに必要なのはなぜか

農研機構は、各ほ場の土壌化学性・物理性を把握し、土壌診断に基づいて適正施肥や土壌管理を行うことを重視しています。

農林水産省が公開する土壌診断資料でも、pH、EC、交換性塩基、CEC、リン酸、窒素、腐植など複数の項目を組み合わせて評価します。

これは、同じ地域・同じ作物でも、土壌条件や施肥履歴が違えば必要な肥料量が変わるからです。

特に窒素では、農研機構の手引きが、栽培環境の違いが大きいため全国一律の可給態窒素基準を作るのは難しく、地域ごとの実情に合った基準づくりが望ましいとしています。

場所や条件による養分の違いをまとめると

  • 母材や鉱物が違うと、もともとの養分供給力が変わる
  • 粘土・腐植が多い土は、カリウムやカルシウムなどの陽イオンを保持しやすい
  • 砂質でCECの小さい土は、養分が流亡しやすい場合がある
  • 硝酸は土に保持されにくく、雨水とともに移動しやすい
  • 可給態窒素は、温度・水分・有機物・微生物活動によって変わる
  • リンはpHや鉄・アルミニウムなどとの反応で利用性が変わる
  • pHが違うと、多くの養分の溶解性と植物利用性が変わる
  • 斜面では侵食・堆積によって養分分布が変わる
  • 作付け体系や収穫量によって、土から持ち出される養分量が変わる
  • 施肥・堆肥・石灰などの管理履歴が、ほ場ごとの養分差をつくる

つまり、土の養分に場所や条件による違いがあるのは、養分が土の中で静止しているのではなく、鉱物や有機物から供給され、粘土や腐植に保持され、水で移動し、微生物によって変換され、植物に吸収され続けているからです。母材、土性、pH、水分、微生物、地形、栽培履歴が違えば、その収支も変わります。だからこそ、同じ作物を育てる場合でも、ほ場ごとの土壌診断に基づいて養分管理を変える必要があるのです。

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