結論から言うと、土の酸性度は、土の中の水に存在する水素イオン(H+)と、粘土や腐植などの表面に保持されている水素・アルミニウムなどの酸性成分が、互いに行き来しながら平衡をつくることで成り立っています。雨によってカルシウムやマグネシウムなどの塩基性陽イオンが流れ出したり、肥料や有機物分解によってH+が生じたりすると、この平衡が酸性側へ動きます。逆に石灰資材などで塩基性成分を補うと、H+や交換性アルミニウムの影響が小さくなり、pHは上昇します。
つまり土の酸性度は、単に「酸が混ざっている量」ではありません。土壌水に溶けているイオン、土粒子表面に吸着されているイオン、鉱物や有機物から供給される成分がつくる動的な化学平衡として理解する必要があります。
土の酸性度は何を表しているのか
土壌の酸性度を表す最も一般的な指標がpHです。pH7が中性で、それより低いと酸性、高いとアルカリ性です。pHは水素イオンの活動度を対数で表した尺度なので、pHが1下がると、水素イオンの活動度はおおよそ10倍になります。
ただし、土そのものに直接pHという数字が貼り付いているわけではありません。通常は一定量の土を水や塩化カリウム溶液などと混ぜ、その液中の水素イオンの状態を電極で測定します。
USDA Natural Resources Conservation Service(NRCS)は、土壌pHが土中物質の溶解性、鉱物の風化から放出される養分、陽イオン交換部位に保持される養分量などに関係すると説明しています。つまりpHは、土壌中の化学反応全体を左右する基本指標の一つです。
水素イオンはどこから生まれるのか
土壌が酸性になるには、土壌中でH+が生じる、またはH+を打ち消す塩基性成分が失われる必要があります。
H+の供給源はいくつもあります。たとえば植物の根や微生物の呼吸で生じた二酸化炭素が水に溶けると弱い酸ができます。有機物の分解過程でも有機酸が生じます。また、アンモニウム態窒素が土壌中で硝酸へ変化する硝化の過程でもH+が生成します。
こうした反応は自然の土壌でも起こりますが、農地では施肥や作物の養分吸収・収穫によってイオン収支が変わるため、人為的な管理も酸性度に影響します。
雨が多いとなぜ土は酸性化しやすいのか
日本の土壌が酸性に傾きやすい大きな理由の一つが、降雨による塩基性陽イオンの溶脱です。
土粒子の表面には、カルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)、カリウム(K+)などの陽イオンが保持されています。雨水が土の中を通過すると、これらの成分の一部は水に溶けて下層へ移動し、最終的には土壌から失われます。
農林水産省は、日本では降雨に伴って石灰質が溶脱し、土壌が酸性化する傾向があるとしています。また別の土づくり資料でも、降水量が多い日本ではCa、Mg、Kなどの塩基成分が溶脱され、土壌が酸性になりやすいと説明しています。
塩基性陽イオンが減ると、粘土や腐植の交換部位をH+や酸性化に関係するAl3+が占めやすくなります。これが、雨の多い環境で酸性化が進む基本的な仕組みです。
粘土や腐植は酸性度にどう関係するのか
土の酸性度を理解するうえで重要なのが、粘土鉱物や腐植が持つ陽イオン交換の性質です。
粘土や腐植の表面には、負の電荷を持つ場所が多くあります。そこにはCa2+、Mg2+、K+、NH4+などの陽イオンが引きつけられています。これらは固定されて動かないわけではなく、土壌水中の別の陽イオンと交換されます。
土壌水中でH+が増えると、H+が交換部位へ入り込み、もともと保持されていたCa2+やMg2+などを追い出すことがあります。追い出された塩基性陽イオンが雨水で流失すると、土壌はさらに酸性化しやすくなります。
逆に、石灰資材によってCa2+などが供給されると、それらが交換部位へ入り、H+やAl3+の影響を弱める方向へ進みます。
「土壌水の酸性」と「土粒子に蓄えられた酸性」は同じではない
ここが土壌酸性を理解する重要なポイントです。pHで直接見ているのは主に土壌溶液中の酸性状態ですが、土粒子の交換部位には、さらに多くの酸性成分が保持されている場合があります。
そのため、同じpH5.0の土が2つあっても、石灰を同じ量加えれば同じpHまで上がるとは限りません。一方の土が粘土や腐植に富み、交換部位に多くのH+やAlを保持していれば、pHを上げるためにより多くの中和資材が必要になることがあります。
このような「土粒子側に蓄えられた酸性」を見る指標の一つが交換酸度です。農研機構は、交換酸度y1が交換性アルミニウムを主体とする土壌中の酸性物質の量を示すと説明しています。
つまり、pHは現在の土壌溶液の酸性状態を示す重要な指標ですが、土壌全体の酸性の蓄えを完全に表すものではありません。
アルミニウムはなぜ酸性土壌で重要なのか
酸性土壌では、アルミニウム(Al)が重要な役割を持ちます。
アルミニウムは地殻や土壌鉱物に広く含まれていますが、中性付近では多くが鉱物や水酸化物などの形で存在し、土壌水中に大量には溶け出しません。ところがpHが低下すると、より溶けやすいAlイオンの割合が増えます。
J-STAGE掲載の「酸性土壌とアルミニウムストレス」では、土壌の酸性化に伴ってAlがイオンとして溶出し、植物根の伸長を大きく阻害すると説明されています。USDA NRCSの分析法資料でも、KCl抽出液のpHが5未満では溶液中に有意な量のAlが存在しやすいことが示されています。
農林水産省も、pH4以下の強酸性ではアルミニウムイオンが活性化し、根に障害が発生するとしています。
アルミニウム自身が酸性化を維持する
Al3+は単に植物毒性を持つだけではありません。水と反応して加水分解される過程でH+を生じるため、強酸性土壌では酸性を維持する一因になります。
このため酸性土壌では、「H+が多いからAlが溶ける」という一方向の関係だけではなく、「溶けたAlが反応してさらにH+を供給する」という相互作用が起こります。
土にはpHの急変を抑える緩衝作用がある
土壌へ少量の酸やアルカリが加わっても、pHが水溶液ほど急激には変わらないことがあります。これは土が緩衝作用を持つためです。
粘土や腐植の交換部位には多くの陽イオンが保持されており、土壌溶液のH+濃度が変化すると、吸着・脱着や鉱物の溶解などによって変化を和らげます。
粘土や腐植が多く、陽イオン交換容量が大きい土では、一般に緩衝力も大きくなりやすい傾向があります。そのため、同じ量の石灰を加えても、砂質土ではpHが大きく上がり、粘土質土では変化が小さいことがあります。
この性質があるため、実際の酸度矯正では現在のpHだけでなく、土性や交換酸度、塩基飽和度なども考慮します。
pH(H2O)とpH(KCl)はなぜ値が違うのか
土壌pHには、水で測るpH(H2O)と、塩化カリウム溶液で測るpH(KCl)があります。両者は同じ値にならないことが一般的です。
水で測る場合は主に土壌溶液の状態が反映されます。一方、KClを加えるとK+が土粒子表面の交換部位へ入り、そこに保持されていたH+やAlを溶液側へ押し出します。そのため、日本の多くの酸性土壌ではpH(KCl)のほうがpH(H2O)より低い値になります。
農研機構は、pH(KCl)から交換酸度y1を高精度に推定できることを報告しており、pH(KCl)が交換性アルミニウムを主体とする酸性成分と強く関係することを示しています。
USDA NRCSも、1N KClを使ったpH測定を、強酸性土壌の酸性度を評価し、交換性Alを扱う際に用いられる方法として紹介しています。
酸性度が変わると養分の状態はどう変わるのか
土壌pHは、養分元素の溶解性や吸着のされ方に大きく影響します。
酸性が強くなると、CaやMgなどの塩基性成分が不足しやすくなり、リンはAlや鉄と結びついて植物が利用しにくい形になりやすくなります。一方、マンガンや一部の金属は溶けやすくなりすぎ、過剰障害を起こす場合があります。
農林水産省は、強酸性では塩基成分の欠乏、Al障害、リン酸の固定、微量要素の過剰・欠乏などが生じ得るとしています。
逆にpHが高すぎると、鉄、マンガン、亜鉛などの微量要素が利用されにくくなる場合があります。したがって、土壌管理の目的は「酸性を完全になくすこと」ではなく、作物や植物に適したpH範囲へ調整することです。
石灰を入れるとなぜpHが上がるのか
酸性土壌の改良には、炭酸カルシウムなどを含む石灰資材が使われます。
石灰資材中の炭酸塩や水酸化物成分はH+を中和し、Ca2+やMg2+などの塩基性陽イオンを土壌へ補給します。これらの陽イオンは粘土や腐植の交換部位へ入り、H+やAl3+の占める割合を低下させます。
さらにpHが上昇すると、Alは水酸化物など溶けにくい形へ変わりやすくなり、交換性Alの影響も弱まります。
その結果、土壌溶液中のH+濃度が下がり、pHが上昇します。
ただし、必要な石灰量は土によって異なります。pHだけでなく、粘土や腐植の量、交換酸度、栽培する作物の適正pHなどを考えて施用する必要があります。
なぜ同じ場所でも酸性度は変化するのか
土壌pHは固定された性質ではありません。降雨、施肥、作物の吸収、収穫、有機物分解、灌水、石灰施用などによって時間とともに変化します。
たとえば作物がCa2+、Mg2+、K+などを吸収し、収穫物としてほ場外へ持ち出されれば、塩基成分の収支は減少します。アンモニウム態窒素肥料が硝化されればH+が生じます。雨が多ければ塩基性陽イオンの溶脱も進みます。
反対に、石灰資材や塩基性成分を含む資材を施用すれば、酸性度は弱まります。
このため、土壌酸性度は「土の生まれつきの性格」であると同時に、現在の土地利用や管理の結果でもあります。
土の酸性度の仕組みをまとめると
- pHは土壌溶液中のH+の状態を表す基本指標である
- H+は有機物分解、根や微生物の反応、硝化などで生じる
- 雨によってCa、Mg、Kなどの塩基性陽イオンが溶脱すると酸性化しやすい
- 粘土や腐植の交換部位はH+やAl3+を含む陽イオンを保持する
- 土壌溶液の酸性と、交換面に蓄えられた酸性は同じではない
- 強酸性ではAlが溶けやすくなり、根の障害やリンの固定に関係する
- 粘土や腐植の多い土は一般にpH変化を緩衝しやすい
- pH(H2O)とpH(KCl)は測定する酸性の側面が異なる
- 石灰はH+を中和し、Caなどを補給して酸性を弱める
- 土壌pHは降雨・施肥・栽培・石灰施用などで継続的に変化する
つまり、土の酸性度は、水素イオンだけで決まる単純な性質ではなく、土壌水と粘土・腐植の交換面、アルミニウム、塩基性陽イオンがつくる平衡によって成り立っています。雨や施肥でその平衡が酸性側へ動き、石灰などで塩基成分を補うと反対方向へ動くため、土壌pHは土の化学状態を映す動的な指標なのです。

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