結論から言うと、土の微生物は、細菌・古細菌・菌類など多様な微生物が、土の孔隙ごとに異なる水分・酸素・pH・有機物・鉱物の条件に選ばれながら住み分け、植物の根や有機物から得るエネルギーを使って増殖し、分解・養分変換・共生・競争などを繰り返すことで一つの微生物群集として成り立っています。つまり、土壌微生物は単に「土の中に菌がたくさんいる」という存在ではなく、土の微小な環境と生物同士の相互作用によって組み上がる生態系です。
土を肉眼で見ると均一な粒の集まりに見えます。しかし実際には、土粒子の表面、団粒の内部、根の周囲、水で満たされた孔隙、空気の多い孔隙などで環境条件が大きく異なります。そのため、同じ一握りの土の中にも性質の違う微生物が同時に暮らせます。土の微生物の仕組みを理解するには、微生物の種類を暗記するより、「どこで、何を食べ、どんな条件で、誰と関わって生きているか」を見ることが重要です。
土壌微生物にはどのような生物がいるのか
土壌には、細菌、古細菌、菌類などの微生物が生息しています。広い意味では、原生生物など微小な生物も土壌生物群集の一部として物質循環に関わります。
細菌や古細菌には、有機物を分解するもの、アンモニウムを硝酸へ変えるもの、酸素の少ない環境で硝酸を別の形へ変えるものなど、多様な機能を持つものがいます。菌類には、植物残さの分解に関わる菌や、植物根と共生する菌根菌などがいます。
農林水産省は、土壌を有機物・無機物の分解や変換が行われる場と位置づけ、土壌微生物が有機物を分解し、窒素などの循環に重要な役割を持つと説明しています。USDA Natural Resources Conservation Service(NRCS)も、土壌生物が有機物分解と養分循環の中心にあるとしています。
なぜ土の中に多様な微生物が同時に暮らせるのか
大きな理由は、土壌が非常に不均質な環境だからです。
J-STAGEに掲載された2023年のレビューでは、土壌の微生物ハビタットを理解するうえで、固相成分、団粒構造、土壌孔隙がつくる不均質性が重要だと整理されています。土の中では数ミリ、場合によってはそれより小さな距離でも、水分、酸素、有機物、鉱物表面などの条件が変わります。
たとえば大きな孔隙は空気が入りやすく、酸素を使う微生物が活動しやすい場所になります。一方、水で満たされた細かな孔隙では酸素が届きにくくなり、酸素が少ない条件を利用する微生物が働きやすくなります。
さらに、団粒の表面と内部でも環境が異なります。表面では新しい有機物や酸素に接触しやすい一方、内部では酸素や基質の供給が制限されることがあります。こうした微小環境の違いが、多様な微生物が住み分けられる理由の一つです。
微生物が生きるエネルギーはどこから来るのか
多くの土壌微生物にとって、主なエネルギー源は植物やほかの生物がつくった有機物です。
落ち葉、枯れた根、作物残さ、動物由来の有機物などが土へ入ると、細菌や菌類がそれらを分解します。分解によって得た炭素化合物をエネルギー源や体の材料に使い、一部の炭素は呼吸によって二酸化炭素として放出されます。
農林水産省は、有機物の施用によって土壌微生物の活動が高まり、有機物分解や養分供給、団粒化などが促されると説明しています。
ただし、有機物なら何でも同じ速さで利用されるわけではありません。糖類など分解しやすい成分は速く利用されやすく、セルロースやリグニンを多く含む残さは、より時間をかけて複数の微生物が段階的に分解します。
植物の根の周りではなぜ微生物が活発になるのか
植物の根のすぐ周囲は根圏と呼ばれ、土壌中でも特に微生物活動が活発な場所です。
植物は根から糖、有機酸、アミノ酸などさまざまな有機化合物を放出します。これらは微生物にとって利用しやすいエネルギー源になるため、根の近くには特定の微生物が集まりやすくなります。
USDA NRCSは、根圏を土壌生態系の中でも微生物活動が集中する場所と説明し、植物根が炭水化物を供給し、微生物が養分や水の循環に関わる相互作用を示しています。
根圏では、植物が一方的に微生物へ餌を与えているだけではありません。微生物の中には、植物が利用しにくいリンを利用しやすい形にしたり、窒素固定に関わったり、菌根菌として水や養分の獲得範囲を広げたりするものがいます。
このため根圏は、植物と微生物が物質を交換する活発な境界面として機能します。
微生物群集はどのように選ばれるのか
土の中へ微生物が存在しても、すべての種類が同じ割合で増えるわけではありません。環境条件に適したものが増え、適さないものは活動が弱まります。
農研機構の研究では、細菌群集構造は有機物施用の違いよりも土壌の種類の影響を受けやすく、一方、糸状菌群集構造は土壌種類より有機物施用の有無や種類の影響を受けやすい傾向が示されています。
つまり微生物群集は、土壌の種類、pH、水分、酸素、温度、植物種、有機物の質と量、土地管理など、複数の条件によって選ばれます。
これを生態学的には環境フィルタリングと考えることができます。酸性に強い微生物、乾燥に強い微生物、酸素の少ない環境で活動できる微生物などが、それぞれ適した場所で優占しやすくなります。
微生物同士の競争や捕食も群集を形づくる
土壌微生物の群集は、環境だけで決まりません。生物同士の関係も重要です。
同じ有機物を利用する微生物同士は、エネルギー源や栄養、空間をめぐって競争します。一方、ある微生物が作った分解産物を別の微生物が利用することもあります。さらに、原生生物などが細菌を捕食することで、細菌の数や種類のバランスが変わることもあります。
このように土壌では、分解者、利用者、捕食者、共生者がつながった食物網が形成されています。
USDA NRCSのSoil Biology Primerでは、細菌、菌類、原生生物、線虫、節足動物、ミミズなどが関わる土壌食物網が、養分循環や土壌構造に影響すると説明されています。
微生物は有機物をどう養分へ変えるのか
土壌微生物の重要な働きの一つが無機化です。
植物残さや腐植に含まれる窒素、リン、硫黄などの多くは、有機化合物の中に組み込まれています。微生物が有機物を分解すると、その一部がアンモニウムなど植物が利用しやすい無機態へ変わります。
さらに窒素では、アンモニウムを亜硝酸、硝酸へ変える硝化に関わる微生物や、酸素の少ない条件で硝酸を窒素ガスなどへ変える脱窒微生物もいます。
農林水産省の土壌生物資料でも、有機物を分解してアンモニア態窒素を放出する微生物、硝化に関わる細菌、脱窒に関わる菌群が窒素循環を構成すると説明されています。
このため、土壌微生物群集の構成が変わると、同じ土でも養分が供給される速さや、窒素が保持・損失される割合が変わることがあります。
微生物は土の構造もつくる
微生物は化学反応だけでなく、土の物理構造にも関わります。
菌類の菌糸は土粒子の間を伸び、粒子を絡める働きをします。また細菌や菌類がつくる粘着性の物質は、粘土や有機物などをまとめるのに役立ちます。こうした作用と植物根などが組み合わさることで、粒子がまとまった団粒が形成・維持されます。
農林水産省は、有機物の施用によって土壌動物や微生物の活動が高まり、その分泌物が接着剤のように働いて団粒形成を促すと説明しています。
団粒ができると大小の孔隙が生まれ、通気性や透水性、保水性が変わります。そして、その新しい孔隙環境が今度は微生物の生息場所になります。
つまり、土の構造が微生物を選び、微生物も土の構造を変えるという双方向の関係があります。
水分と酸素は微生物の働きをどう変えるのか
土壌微生物は、水分が多ければ多いほど活発になるわけではありません。
乾燥しすぎると、微生物が利用する水が不足し、溶けた栄養や酵素の移動も難しくなります。一方、孔隙のほとんどが水で満たされると、酸素の拡散が遅くなり、好気性微生物の活動が制限されます。
すると、酸素を使わない代謝ができる微生物の割合が増え、硝酸の還元、鉄や硫黄化合物の還元など、乾いた畑とは異なる反応が起こりやすくなります。
水田と畑で微生物の働きが大きく異なるのは、この酸素環境の違いが大きな理由の一つです。
pHや温度も微生物群集を変える
微生物には、それぞれ活動しやすいpHや温度の範囲があります。
強い酸性やアルカリ性では活動しにくい種類がある一方、その条件に適応した微生物もいます。そのため土壌pHは、単に植物の養分利用性だけでなく、微生物群集の構成にも関係します。
温度も、酵素反応や増殖速度に影響します。低温では多くの微生物反応が遅くなり、適温の範囲では温度上昇に伴って分解が速くなる傾向があります。
ただし、微生物の反応はpHや温度一つだけで決まるのではなく、水分、基質、酸素などとの組み合わせで変化します。
「有用菌が多ければ良い土」とは限らない
土壌微生物を考えるとき、「善玉菌を増やせばよい」と単純化するのは適切ではありません。
土壌には、植物に有利な共生菌や分解者がいる一方、病原菌も存在します。また、ある微生物が有益かどうかは植物種や環境によって変わる場合があります。
さらに、土壌微生物の多くは培養だけでは把握しにくく、農研機構では環境DNAを用いて土壌微生物群集を解析する研究が進められてきました。重要なのは、特定の一種類を増やすことより、土壌の物理・化学条件や有機物供給を含め、群集全体が機能できる生息環境を整えることです。
土の微生物の仕組みをまとめると
- 土壌には細菌、古細菌、菌類など多様な微生物が生息する
- 土の孔隙、団粒、鉱物、有機物が微小な生息環境をつくる
- 水分、酸素、pH、温度などの違いによって住みやすい微生物が変わる
- 落ち葉、根、作物残さなどの有機物が主なエネルギー源になる
- 根圏では植物の根から出る有機物によって微生物活動が高まる
- 土壌種類や有機物施用などが微生物群集の構造を変える
- 微生物同士は競争、共生、捕食などの関係を持つ
- 有機物分解、窒素変換、リン利用などを通じて養分循環を動かす
- 菌糸や分泌物は団粒形成にも関わり、土の構造を変える
- 土の構造と微生物群集は互いに影響し合いながら変化する
つまり、土の微生物は、一種類の菌が単独で働く仕組みではなく、土がつくる無数の微小環境に多様な微生物が配置され、植物や有機物からエネルギーを得ながら、分解・変換・競争・共生を繰り返すことで成り立っています。その結果として養分循環や団粒形成などが起こり、土そのものの性質も変化していくのです。

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