なぜ土の侵食はどのような仕組みで成り立つのか?|仕組みと背景をわかりやすく解説

結論から言うと、土の侵食は、雨や流れる水、風などの力で土の粒子が地表からはがれ、その粒子が別の場所へ運ばれ、力が弱くなった場所で堆積するという「剥離・運搬・堆積」の連続した仕組みで成り立っています。水による侵食では雨滴の衝撃と地表を流れる水が、風による侵食では風が土粒子へ与える力が主な駆動力になります。そして、土粒子の大きさ、団粒の安定性、水のしみ込みやすさ、斜面の傾き、植生の有無などによって、侵食の起こりやすさが変わります。

侵食は、大きな溝や土砂流出が起きたときだけ発生するものではありません。表面のごく薄い土が少しずつ移動する場合もあり、長い時間がたつと肥沃な表土が失われます。土の侵食を理解するには、「土が削られる」という一言ではなく、土粒子がどのように動き始め、何によって運ばれ、どこで止まるのかを順番に見ることが重要です。

目次

土壌侵食の基本は「剥離・運搬・堆積」

FAOは、土壌侵食を、水・風・耕起などによって表土が地表から取り除かれる現象として扱っています。水食の力学的な過程は、大きく分けると次の3段階で考えることができます。

  1. 雨滴や流水の力で土粒子が地表から剥離する
  2. はがれた粒子が水や風によって運搬される
  3. 流速や風速が弱くなった場所で粒子が堆積する

この3段階のうち、どこかが起こりにくければ侵食量は小さくなります。たとえば植物の葉が雨滴を受け止めれば粒子がはがれにくくなり、地表の流れが遅ければ運搬力が低下します。逆に、裸地で激しい雨が降り、斜面を大量の水が流れると、剥離と運搬が同時に強まり、侵食が急速に進みます。

水による侵食は雨滴の衝撃から始まる

裸地へ雨が降ると、雨滴は地表へ衝突します。小さな雨粒でも速度を持っているため、その運動エネルギーが土へ伝わり、表面の団粒や粒子を壊して飛散させます。

この現象を雨滴侵食やスプラッシュ侵食と呼びます。植物、作物残さ、落ち葉、マルチなどで地表が覆われていれば、雨滴は地面へ直接当たる前に勢いを失います。しかし裸地では、衝撃がそのまま土表面へ加わります。

雨滴で団粒が壊れると、細かな粘土やシルト粒子が生じます。それらが地表の孔隙をふさぐと、表面に水を通しにくい薄い層ができることがあります。すると雨水が土の中へ入りにくくなり、地表を流れる水が増えます。

つまり雨滴は、粒子を直接はがすだけでなく、浸透を低下させて表面流出を増やすことで、その後の侵食も強めることがあります。

雨水がしみ込めないと表面流出が生まれる

降った雨のすべてが土の中へ入るわけではありません。雨の強さが土の浸透能力を上回ったり、土がすでに十分に湿っていたりすると、余った水は地表を流れます。

この地表流が、雨滴などによってはがれた土粒子を運びます。流れる水にはせん断力があるため、条件によっては水そのものが地表の土をさらに剥離させます。

農林水産省が紹介する傾斜畑の土壌流亡対策でも、大雨や長雨、融雪時などに地下へ浸透できない余剰水が圃場表面を流れ、土壌流亡が起こりやすいことが示されています。土層を改良して水みちをつくり、地表流を地下へ浸透させることで流亡を抑えられるのは、この仕組みによります。

水食は面状侵食から溝状侵食へ発達する

地表を薄く広がる水によって、表土がほぼ均一に少しずつ削られる現象を面状侵食と呼びます。削られる厚さが薄いため、初期には気づきにくい侵食です。

水が流れやすい場所へ集中すると、細い溝ができます。これがリル侵食です。さらに水が集中し、流れのエネルギーが大きくなると、通常の耕起では埋め戻せないほど大きなガリ侵食へ発達することがあります。

ここでは、「流れが集中するほど侵食力が増える」ことが重要です。地表にごく小さな凹凸があるだけでも水が集まり、いったん溝ができるとその溝にさらに水が集まるため、侵食が自己強化的に進む場合があります。

斜面が急で長いほど水食が強まりやすい

水は重力によって低い場所へ移動します。斜面が急になると、一般に表面流の速度が上がりやすくなり、土粒子をはがして運ぶ力も大きくなります。

また、斜面が長いと下方へ行くほど上流側からの水が集まり、流量が増えやすくなります。そのため同じ降雨でも、短い緩斜面より、長く急な斜面のほうが侵食リスクは高くなりやすい傾向があります。

農研機構も、大規模で長い斜面を持つ傾斜畑では、降雨に伴う土壌侵食や土壌流亡が著しく、土壌流出対策が必要であるとしています。テラス承水路や集水路によって水の流れを途中で受け止める対策は、斜面を流れ続ける水の量と速度を抑える仕組みです。

土の粒子や構造によって侵食されやすさが違う

同じ雨が降っても、すべての土が同じ量だけ侵食されるわけではありません。土には、外力を受けても粒子がはがれにくい土と、細かく崩れて流されやすい土があります。

砂、シルト、粘土の割合、粘土鉱物の種類、有機物量、団粒の安定性などが、その違いをつくります。

大きな砂粒は比較的重いため、水や風で運ぶには大きな力が必要です。一方、非常に細かな粘土粒子は単独なら運ばれやすいものの、安定した団粒を形成していれば簡単には離れません。シルトや細砂が多く、団粒が弱い土では、雨滴によって粒子がはがれやすく、水にも運ばれやすい場合があります。

つまり侵食のしやすさは、粒径だけではなく、粒子同士がどれだけ強くまとまっているかでも決まります。

団粒構造は侵食にどう関係するのか

粘土、腐植、植物根、微生物がつくる物質などによって土粒子がまとまると、団粒が形成されます。

安定した団粒には、侵食を抑える二つの働きがあります。一つは、粒子がまとまっているため雨滴の衝撃で細かくばらけにくいことです。もう一つは、団粒と団粒の間に大きな孔隙ができ、水が土へ浸透しやすくなることです。

浸透が増えれば、地表を流れる水は減ります。つまり団粒構造は、剥離を抑えることと表面流出を減らすことの両方によって水食を弱めます。

逆に、過度な耕起や踏圧などで団粒が壊れ、表面が細粒化すると、雨滴によってクラストができやすくなり、浸透が低下して侵食が進みやすくなる場合があります。

植物は侵食の各段階を弱める

植物被覆は、侵食防止に非常に大きな役割を持ちます。

  • 葉や茎が雨滴を受け止め、衝撃を弱める
  • 落ち葉や作物残さが地表を直接保護する
  • 根が土粒子や団粒を保持する
  • 根や土壌生物が孔隙をつくり、浸透を助ける
  • 地表の粗さが増し、水の流速を下げる
  • 風を遮り、地表付近の風速を下げる

FAOも、土壌侵食を減らす方法として地表を常に植生で覆うことやカバークロップの利用、耕起の制限、段々畑などを挙げています。

植物が侵食を防ぐのは、単に根で土をつかむからだけではありません。雨滴の剥離、流水の運搬、風の力など、侵食の複数の段階を同時に弱めるからです。

風食はどのように始まるのか

風食は、乾燥して細かな粒子がばらばらになった地表へ強い風が吹き、風が粒子を動かす力が土の抵抗力を上回ると始まります。

地表が湿っていれば水による粒子同士の結合が強くなり、風では動きにくくなります。また、大きな団粒や植物残さ、地表の凹凸があると風速が弱まり、粒子の移動が抑えられます。

反対に、裸地で乾燥し、細かな粒子が多く、地表が平滑で、長い距離を風が遮られずに吹く場所では風食が起こりやすくなります。

風で動く粒子には3つの代表的な動きがある

風食では、粒子の大きさによって代表的な移動のしかたが異なります。

跳躍

砂などの粒子が地表から持ち上がり、短い距離を跳ねながら進む動きです。英語ではsaltationと呼ばれます。跳ねた粒子が地表へ衝突すると、別の粒子をたたき出すため、風食が連鎖的に強まります。

表面移動

跳躍する粒子の衝突や風の力によって、比較的大きな粒子が地表を転がったり滑ったりして移動します。surface creepと呼ばれる動きです。

浮遊

非常に細かな粘土やシルト粒子は空中へ持ち上げられ、長い距離を運ばれることがあります。これがsuspensionです。

USDA NRCSの風食予測システムWEPSも、風食による移動をsaltation-creepとsuspensionなどの過程として扱っています。また風食は、肥沃な表層から粘土や有機物を選択的に失わせ、土壌構造や生物活動を低下させる可能性があると説明しています。

風食も「剥離・運搬・堆積」で考えられる

風食でも基本構造は水食と同じです。

まず風が地表の粒子を動かし始めます。次に跳躍、表面移動、浮遊によって運搬されます。そして風速が低下した場所、植物や防風林の風下、凹地などで粒子が落ちて堆積します。

特に跳躍粒子は、地表へぶつかることで次の粒子をはがすため、いったん風食が始まると下風側へ向かって粒子の移動量が増える場合があります。

このため風食対策では、地表を被覆するだけでなく、防風林や植生帯で風の通り道を分断し、長い距離を強風が吹き抜けないようにすることも重要です。

侵食と堆積は一つの現象の両側にある

侵食された土は消滅するのではなく、別の場所へ移動します。水で流された土は斜面の下部、水路、河川、貯水池などへ堆積し、風で飛ばされた土は風下の畑、道路、水路、遠方の地域へ積もります。

このため侵食は、土が失われる場所だけの問題ではありません。運ばれた土砂によって水路が埋まったり、河川の濁りが増えたり、養分がほ場外へ移動したりするなど、下流・風下側にも影響します。

一方、自然の地形形成では侵食と堆積は常に起こっており、河川の氾濫原や三角州なども長い時間の堆積によって形成されます。問題になるのは、人間活動などで侵食速度が大きく加速し、土壌形成より速く表土が失われる場合です。

なぜ表土が失われると影響が大きいのか

地表近くの表土には、腐植、養分、植物根、微生物などが比較的多く含まれています。そのため侵食で表土が失われると、土の厚さが減るだけでなく、肥沃度や保水性、団粒構造、生物活動なども低下しやすくなります。

FAOは、土壌侵食による肥沃な表土の除去が土壌の健全性と生産性を低下させるとしています。USDA NRCSも、風食によって粘土や有機物を多く含む肥沃な部分が失われることを問題として挙げています。

しかも、土壌が形成される速度は一般に非常に遅いため、短期間に失われた表土を自然の作用だけですぐ元へ戻すことはできません。

侵食を抑える方法は仕組みを逆に考える

侵食対策は、「剥離・運搬・堆積」の仕組みを逆向きに考えると理解しやすくなります。

  • 地表を植物や作物残さで覆い、雨滴や風から土を守る
  • 団粒構造を維持し、粒子をはがれにくくする
  • 土の浸透性を保ち、表面流出を減らす
  • 等高線方向の管理や不耕起帯で水の流れを分断する
  • 長い斜面では承水路やテラスで流量を分散する
  • 防風林や植生帯で地表風速を下げる
  • 運ばれた土を沈砂池や植生帯などで捕捉する

農林水産省の傾斜畑対策では、土層改良で表面水を地下へ浸透させ、部分不耕起帯で水の流れを分断して流出土壌を捕捉することで、無処理に比べ土壌流亡量を低減した事例が示されています。

このように侵食対策は、「土を固めればよい」のではなく、雨滴を弱め、水をしみ込ませ、流れや風の速度を下げ、粒子を保持するという複数の作用を組み合わせます。

土の侵食の仕組みをまとめると

  • 侵食は土粒子の剥離・運搬・堆積という連続過程で成り立つ
  • 水食では雨滴の衝撃と表面流出が主な力になる
  • 地表流が集中すると面状侵食からリル・ガリ侵食へ発達することがある
  • 急で長い斜面ほど水の運搬力が大きくなりやすい
  • 土性や団粒安定性、浸透性が侵食されやすさを左右する
  • 植物被覆は雨滴・流水・風の力を複数の段階で弱める
  • 風食では跳躍・表面移動・浮遊によって粒子が運ばれる
  • 侵食された土は別の場所へ堆積し、下流や風下にも影響する
  • 表土の損失は有機物・養分・保水性・生物活動の低下につながりやすい
  • 侵食対策は剥離を防ぎ、運搬力を弱め、流出土を捕捉する仕組みを組み合わせる

つまり、土の侵食は単に表面が削れる現象ではなく、外から加わるエネルギーが土粒子の結びつきを上回って粒子を動かし、その粒子が水や風の流れに乗って別の場所へ移ることで成り立っています。土の構造、孔隙、斜面、植生がそのエネルギーの伝わり方を変えるため、侵食の強さは「雨や風の強さ」と「土の状態」の組み合わせで決まるのです。

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出典・参考資料

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