なぜ土壌微生物の種類や働きは場所や条件によって違うのか?

結論から言うと、土の微生物に場所や条件による違いがあるのは、土壌の種類、pH、水分、酸素、温度、有機物、植物の根、深さ、施肥や堆肥などの管理条件が場所ごとに異なり、それぞれの条件に合う微生物が選ばれて増えるからです。同じ畑の中でも、根のすぐ近くと根から離れた場所、乾いた部分と湿った部分、表層と下層では、住みやすい微生物や活動の強さが変わります。

つまり土壌微生物は、どこでも同じ種類が同じ割合で存在するわけではありません。微生物群集は、土の物理・化学条件と植物・人間の管理を受けながら変化するため、場所ごと、季節ごと、深さごとに違いが生まれます。

目次

まず「土の微生物の違い」とは何を比べているのか

土壌には細菌、古細菌、菌類など多様な微生物がいます。違いを比べるときには、単に「微生物が多いか少ないか」だけでなく、どの分類群が多いか、どのような機能を持つ微生物が活動しているか、どれくらい活発に有機物分解や養分変換をしているかを見ます。

農研機構では、土壌から直接抽出したDNAを用いて微生物群集を解析し、土壌の種類や有機物施用が細菌・糸状菌の群集構造にどのような影響を与えるか調べています。

その研究では、細菌群集は有機物施用より土壌の種類の影響を受けやすく、糸状菌群集は土壌種類だけでなく有機物施用の有無や種類の影響を受けやすい傾向が示されています。

つまり、微生物の違いは一つの条件だけでは説明できず、土そのものの性質と、そこへ加わる環境・管理条件の両方を見る必要があります。

土壌の種類が違うと微生物群集が変わるのはなぜか

土壌の種類が違うと、砂・シルト・粘土の割合、腐植量、pH、養分保持力、孔隙の大きさなども違います。

微生物は土粒子の表面や孔隙の中で暮らしているため、このような違いは生息環境そのものの違いになります。

たとえば粘土や腐植が多い土では、微細な孔隙や有機物が多く、微生物が付着できる表面も多くなります。一方、砂質土では大きな孔隙が多く、水が抜けやすく、乾燥しやすい場合があります。

農研機構の比較試験で、同じ気象条件でも土壌種類ごとに細菌群集が分かれる傾向が見られたのは、こうした土壌特性の違いが微生物にとって強い環境条件になるためと考えられます。

pHが違うと住みやすい微生物が変わる

土壌pHは、微生物群集を左右する代表的な条件です。

微生物には、それぞれ活動しやすいpHの範囲があります。強い酸性を好むものもいれば、中性付近で活発に増えるものもいます。

pHが変わると、微生物自身への直接的な影響だけでなく、鉄、リン、カルシウムなどの溶けやすさや利用しやすさも変わります。そのため、同じ有機物があってもpHが違えば増えやすい微生物が変わります。

USDA Natural Resources Conservation Serviceも、pHを微生物活動を左右する物理・化学条件の一つとして挙げています。

森林、草地、畑、石灰を施用した農地などで微生物群集が異なる場合、pHの差がその理由の一つになっていることがあります。

水分が違うと微生物の活動が変わる

微生物が活動するには水が必要です。

土が乾燥しすぎると、微生物が利用できる水が少なくなり、養分や分解産物も移動しにくくなるため、活動は低下しやすくなります。

一方、水が多ければ多いほどよいわけではありません。孔隙の大部分が水で満たされると、空気中の酸素が土中へ入りにくくなります。

USDA NRCSは、土壌生物の活動には水分、温度、pH、塩類など複数の物理条件が関係し、水分と通気性が相互に結びついていると説明しています。

そのため、同じ土でも乾燥時と降雨後では、活動する微生物の種類や強さが変わることがあります。

酸素条件が違うと微生物の働きも変わる

土壌中の酸素量は、どの代謝を使う微生物が活動できるかを大きく左右します。

排水がよく、空気が入りやすい土では、酸素を使って有機物を分解する好気性微生物が活動しやすくなります。

一方、水田や低湿地のように土が長く水で満たされる場所では、酸素が不足します。すると酸素を使わなくても活動できる微生物が重要になり、硝酸、鉄、硫黄などを利用した反応が増えます。

つまり、同じ地域でも高台の乾いた土と低地の湿った土では、酸素環境が違うため、微生物群集と物質循環の仕組みも変わります。

温度が違うと微生物活動の速さが変わる

微生物の代謝は温度の影響を受けます。

一般に、活動できる範囲では温度が高くなると有機物分解や呼吸が速くなりやすく、低温では反応が遅くなります。

USDA NRCSは、土壌呼吸が土壌有機物、温度、水分、pH、通気性などに左右され、季節だけでなく日単位でも変化すると説明しています。

そのため同じ森林や畑でも、夏と冬で微生物活動は同じではありません。

季節によって微生物群集そのものも変わる

季節変化は、温度だけでなく、水分、植物の生育、根から出る有機物、落葉量なども変えます。

北海道東部の森林を対象にしたJ-STAGE掲載研究では、細菌と真菌の群集構造が初冬・初春・盛夏で異なることが報告されています。

特に植物と共生する真菌では、植物から供給される炭素の違いが季節変化に関係する可能性が示されています。

つまり「この土にはこの微生物がいる」という状態は固定されたものではなく、同じ地点でも一年の中で変化します。

植物の根の近くと離れた場所で違いが出るのはなぜか

植物の根のすぐ周囲は根圏と呼ばれ、根から離れた土とは環境が異なります。

根は糖、有機酸、アミノ酸などの有機化合物を周囲へ放出します。これらは微生物のエネルギー源になるため、根の近くでは特定の微生物が増えやすくなります。

また、植物は根から養分や水を吸収するため、根圏ではpH、水分、養分濃度も変化します。

北海道の森林研究でも、細菌群集では根圏と非根圏で差が見られ、pHや含水率との関連も報告されています。

同じ一握りの土の中でも、根から数ミリ離れるだけで微生物環境が違うことがあるのです。

植物の種類が違えば微生物も変わる

植物ごとに根から出す有機物の種類や量、根の深さ、養分の吸収量が異なります。

そのため森林、草地、畑では、同じ地域でも微生物群集が同じとは限りません。

さらに、菌根菌のように特定の植物群と共生しやすい菌もいます。植物種が変われば、その植物と結びつく微生物の割合も変化します。

作付け作物を変える輪作では、根からの炭素供給や残さの質が年ごとに変わるため、長期的には土壌微生物群集にも影響します。

有機物の量と種類で菌類・細菌のバランスが変わる

落ち葉、作物残さ、堆肥、家畜ふんなどは、微生物にとってエネルギー源と養分源になります。

ただし、有機物なら何でも同じではありません。糖の多い分解しやすい有機物、木質成分の多い残さ、熟成した堆肥などでは、利用できる微生物が違います。

農研機構の試験では、糸状菌群集が土壌の種類より有機物施用の有無や施用有機物の種類の影響を受けやすい傾向が示されています。

このため、同じ土壌でも化学肥料だけを使う区、牛ふん堆肥を入れる区、別の有機質資材を入れる区では、微生物群集が異なる方向へ変化することがあります。

深さによって微生物が違うのはなぜか

土壌の表層と下層では、有機物、酸素、根の量、水分、温度変化の大きさが異なります。

表層には落ち葉や作物残さが入りやすく、細かな根も多いため、微生物が利用できる有機物が比較的豊富です。

一方、深くなるほど新しい有機物の供給が少なくなり、孔隙構造や酸素条件も変わります。そのため微生物量や群集構造は深さとともに変化します。

ただし下層にも微生物は存在し、鉱物表面や地下水、深い根から供給される有機物を利用しています。

肥料や石灰の使い方でも微生物は変わる

施肥は養分量を変えるだけでなく、pHや塩類濃度も変えます。

たとえば窒素肥料の長期施用で土壌が酸性化すると、酸性条件に適した微生物が相対的に増える可能性があります。石灰を施用してpHを上げれば、別の微生物が活動しやすくなります。

また、堆肥は養分だけでなく炭素源も供給するため、微生物への影響は化学肥料とは異なります。

同じ作物を栽培していても、長年の施肥履歴が違えば、土の化学性とともに微生物群集も違ってくるのです。

耕起や踏圧でも微生物の生息場所が変わる

耕起は土を混ぜ、団粒や孔隙の状態を変えます。踏圧や重い機械による締め固めは、大きな孔隙を減らし、通気性や水分状態を変えます。

USDA NRCSは、土壌構造、孔隙、浸透、水分保持などの物理的性質が微生物の生息環境に関係するとしています。

そのため、耕起頻度や機械走行の違いは、酸素や水分、有機物の分布を通じて微生物活動へ影響します。

「微生物が多い土ほど良い」と単純には言えない

微生物量が多いことだけで、土の良し悪しを判断することはできません。

土壌微生物には、有機物分解や養分供給に役立つもの、植物と共生するもの、病原性を持つものなど多様な生物がいます。

また、同じ微生物でも環境条件によって働き方が変わる場合があります。

重要なのは、特定の一種類を増やすことではなく、植物と土壌の条件に合った多様な微生物が機能できる環境を維持することです。

USDA NRCSの土壌健全性評価でも、微生物量だけでなく、有機物、pH、水分、土壌構造、浸透、養分状態など複数の指標を組み合わせて評価します。

場所や条件による微生物の違いをまとめると

  • 土壌の種類が違うと、孔隙・粘土・腐植・pHなどが変わり、微生物群集も変わる
  • pHによって活動しやすい微生物が異なる
  • 乾燥すると微生物活動は低下しやすい
  • 過湿になると酸素が不足し、嫌気的な反応を行う微生物が重要になる
  • 温度と季節によって分解や呼吸の速さが変わる
  • 根圏では植物から供給される有機物によって特定の微生物が増えやすい
  • 植物種が違えば根からの供給物や共生関係も変わる
  • 有機物施用の有無や種類は、特に菌類群集へ影響することがある
  • 表層と下層では有機物・酸素・根の量が違い、微生物群集も変わる
  • 施肥・石灰・耕起・踏圧などの管理履歴も微生物の生息環境を変える

つまり、土の微生物に場所や条件による違いがあるのは、微生物が土の中で無関係に存在しているのではなく、pH、水分、酸素、有機物、植物、土壌構造などに応じて選ばれながら群集をつくっているからです。同じ場所でも季節や管理によって条件が変われば微生物群集も変化します。土壌微生物の違いは、その土地の環境と管理の履歴を反映した結果なのです。

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出典・参考資料

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