同じ種類の植物でも、日当たりのよい場所につく葉と、木陰や樹冠の内側につく葉では、厚さや色、光合成のしかたが違うことがあります。こうした葉はそれぞれ「陽葉」「陰葉」と呼ばれます。なぜ植物の葉は、日向と日陰で性質が違うのでしょうか。
結論からいうと、植物は葉が成長するときに受ける光の強さや質に合わせて、葉の厚さ、柵状組織の発達、単位面積あたりの葉量、光合成能力、光を集める仕組み、過剰光を逃がす仕組みなどを調整するためです。日向では強い光を処理できる葉が、日陰では少ない光を効率よく受け取れる葉がつくられます。
日向葉と日陰葉は同じ植物でも性質が変わる
陽葉と陰葉の違いは、植物種が違うから生じるとは限りません。同じ個体でも、樹冠の外側と内側、上部と下部など、葉が育つ場所の光環境が違えば性質が変わることがあります。
このように、同じ遺伝子型でも環境に応じて形や生理を変える性質を表現型可塑性と呼びます。日向葉と日陰葉は、光環境に対する代表的な可塑的応答です。
植物は移動して明るい場所や暗い場所を選べないため、その場所で受ける光に合わせて葉そのものを調整します。
日向葉は厚くなることが多い
強い光の下で形成された葉は、弱い光の下で形成された葉より厚くなることがあります。
シロザを用いた日本の研究では、陽葉は陰葉より葉全体や柵状組織が厚く、光合成に関わるタンパク質量も多いことが報告されています。
葉が厚くなると、単位面積あたりにより多くの葉肉細胞や葉緑体を配置できます。そのため、強い光を受ける場所では、多くの光エネルギーを処理できる構造をつくりやすくなります。
日陰葉は薄く広くなることがある
日陰では利用できる光が少ないため、厚い葉をつくるより、同じ量の材料でより広い葉面積を展開するほうが有利な場合があります。
そのため陰葉では、葉が薄く、単位重量あたりの葉面積が大きくなる傾向が見られます。これは比葉面積が高い状態です。
薄い葉は、少ない炭素や窒素の投資で広い受光面を確保できます。日陰では、一枚の葉を厚くするより、少ない光を広い面積で拾うことが重要になるためです。
日向葉では柵状組織がよく発達する
多くの双子葉植物では、葉の上面側に柵状組織があります。柵状組織には葉緑体を多く含む細胞が並びます。
強光下で形成された陽葉では、この柵状組織が厚くなったり、細胞層が増えたりすることがあります。
日本の落葉広葉樹研究でも、光環境に応じて柵状組織の厚さや層数が変化し、それとともに光合成特性も変わることが示されています。
強い光の下では、複数の細胞層へ光を分配することで、葉全体として大きな光エネルギーを利用しやすくなります。
日陰葉は少ない光を効率よく使う方向へ調整される
日陰葉では、最大光合成速度そのものは陽葉より低いことがあります。しかし、弱い光でも光合成を始めやすく、少ない光を効率よく利用できるように調整されます。
たとえば、光補償点が低くなる、光捕集アンテナの構成が変わる、葉緑素bの割合が高くなるなどの変化が見られることがあります。
重要なのは、陰葉が「性能の低い葉」なのではなく、弱光環境に合わせて必要な投資先を変えた葉だということです。
日向葉は単位面積あたりの光合成能力が高いことが多い
強い光の下で育った葉は、単位葉面積あたりの光合成能力が高くなることがあります。
複数の落葉広葉樹を比較した研究では、日向葉は日陰葉より厚く、単位面積あたりの光飽和時の光合成速度も高い傾向が示されました。
これは、日向葉が単位面積あたりに多くの葉肉組織や光合成関連タンパク質を持ち、強い光を利用できるようになっているためです。
ただし、単位重量あたりで見ると差が小さくなる場合もあります。陽葉は一枚の面積により多くの材料を投資しているからです。
日陰では光の「量」だけでなく「質」も違う
木陰や樹冠内部では、光の総量が減るだけではありません。上層の葉が赤色光や青色光を多く吸収するため、下層へ届く光の波長構成も変わります。
日陰では遠赤色光の割合が相対的に高くなります。植物はフィトクロムなどの光受容体を通じて、この光質の変化も感知します。
その結果、葉の角度、葉柄の伸び、葉の展開方向などが変化し、限られた光を得やすい配置へ調整されることがあります。
光捕集アンテナの構成も日向と日陰で変わる
葉緑体のチラコイド膜には、クロロフィルを含む光捕集アンテナ複合体があります。
日陰では光が少ないため、一つの反応中心あたりにより多くの光を集められるよう、アンテナ系の構成が変わることがあります。クロロフィルaとbの比も光環境によって変化します。
一方、日向では光が十分にあるため、光を集める能力を最大化するより、受け取った過剰エネルギーを安全に処理する能力が重要になります。
日向葉では強すぎる光から守る仕組みが重要
強い日射の下では、葉が吸収する光エネルギーが光合成で使える量を超えることがあります。
余った光エネルギーを処理できないと、活性酸素が発生し、光化学系が傷つく光阻害につながります。
そのため日向葉では、キサントフィルサイクルなどを利用して余分なエネルギーを熱として逃がす非光化学的消光が重要になります。
日向葉は「たくさん光を吸う葉」であるだけでなく、「たくさん来る光を安全に処理できる葉」でもあります。
日陰葉を急に強光へ出すとすぐ陽葉にはならない
成熟した葉は、光環境が変わっても形態を自由に作り直せるわけではありません。
日陰で完成した薄い葉を急に強い日差しへ出すと、光防御能力が追いつかず、葉焼けや光阻害が起こることがあります。
一方で、葉緑体の光防御や光合成装置の一部は、数日から数週間かけて新しい光環境へ順化できます。
海外のレビューでも、日向・日陰順化には、葉の発生段階で決まる比較的固定的な形態変化と、成熟後にも変えられる生理的調整の両方があると整理されています。
新しく作られる葉は今の光環境に合わせやすい
光環境が変わったとき、最も大きく性質を変えられるのは、これから成長する若い葉です。
葉がまだ発達途中なら、細胞分裂や柵状組織の発達、葉厚、葉面積などを新しい光条件に合わせて調整できます。
落葉広葉樹の研究でも、光環境が変わると、当年の光強度に応じて柵状組織や光合成特性が順化することが示されています。
そのため、植物を明るい場所から暗い場所へ移したとき、古い葉より後から出た葉のほうが新しい環境に適した性質を持つことがあります。
「陽葉」と「陰葉」は完全に別の種類の葉ではない
陽葉と陰葉は二つに完全に分かれるものではありません。
実際には、受ける光の強さに応じて葉厚、比葉面積、光合成能力などが連続的に変化します。樹冠の上から下へ光が徐々に弱くなる木では、葉の性質も連続的に変わることがあります。
したがって、「陽葉か陰葉か」という分類は理解しやすい表現ですが、植物の順化反応は本来なめらかな変化です。
日向葉は必ず濃い緑、日陰葉は必ず薄い緑とは限らない
葉色だけで陽葉と陰葉を判定することはできません。
日陰葉では、限られた光を集めるため、単位重量あたりのクロロフィル量が多くなったり、クロロフィルbの割合が高くなったりすることがあります。そのため、薄い葉でも濃い緑に見える場合があります。
一方、日向葉は厚いため、単位面積あたりでは多くのクロロフィルを持つことがあります。
葉色は葉厚、色素濃度、葉齢など複数の要因で決まるため、「濃い緑=日向葉」と単純には判断できません。
日向では葉の角度を変えて過剰光を避けることもある
強光環境では、葉を水平に広げるより、少し立てることで正午の強い日射を受けにくくする植物があります。
一方、日陰では葉を水平に近づけ、少ない光を広い面で受ける配置が有利になることがあります。
つまり、日向と日陰の違いは葉の内部構造だけではなく、葉柄の長さ、葉の向き、枝の配置など植物体全体の構造にも表れます。
日向と日陰では蒸散条件も違う
日向では葉温が上がりやすく、外気との蒸気圧差も大きくなりやすいため、同じ気孔開度でも水を失いやすくなります。
そのため、日向葉では強光への対応だけでなく、水輸送や気孔制御も重要です。
日陰では葉温が低く、風も弱い場合が多いため、蒸散要求は小さくなりやすくなります。
日向葉と日陰葉の違いは、光だけに対する反応ではなく、その場所で同時に変わる温度・湿度・風などへの総合的な順化でもあります。
同じ植物でも樹冠の上と下で葉の性質が変わる
樹木の樹冠上部では強い日射を受け、下部や内側では上の葉に遮られて光が弱くなります。
そのため、同じ一本の木でも、上部では厚く高LMAで高い面積当たり光合成能力を持つ葉、下部では薄く低LMAで弱光に適した葉が形成されることがあります。
複数の広葉樹と針葉樹を比較した研究でも、樹冠内の光勾配に応じて葉構造と光合成特性が変化することが示されています。
この性質により、一本の植物が明るさの異なる場所を同時に利用できます。
日陰葉は「暗い場所でも光合成収支をプラスにする」ことが重要
日陰では得られる光エネルギーが少ないため、最大光合成速度を高くするだけでは不十分です。
葉を厚くしすぎれば呼吸や維持のコストも増えます。そこで、薄い葉をつくり、少ない材料で受光面積を広げ、弱光でも光合成収支をプラスに保つことが重要になります。
陰葉は、強光下で最大生産を目指す葉ではなく、限られたエネルギー条件で利益を出すように調整された葉といえます。
日向葉と日陰葉の違いには限界もある
どの植物でも同じ程度に日向・日陰へ順化できるわけではありません。
強光を好む植物では、深い日陰へ移すと順化しても十分な炭素収支を維持できないことがあります。逆に、陰生植物を急に強光へ出すと、光防御能力が足りず傷害を受けることがあります。
光環境への可塑性には種ごとの限界があり、その違いが日なたを好む植物と日陰に耐える植物の分布にも関係します。
葉が置かれる光環境は一日の中でも変わる
森林や樹冠内では、日陰でも一日中同じ明るさとは限りません。上の葉の隙間から短時間だけ強い光が差し込むサンフレックが起こることがあります。
陰葉は弱光利用に適応しつつ、こうした短時間の強光も利用します。一方で、急な強光による光阻害を避ける必要もあります。
そのため日陰順化は、単に「暗い光だけを使う」仕組みではなく、変動する光環境を効率よく利用する仕組みでもあります。
身近な植物で日向葉と日陰葉を比べるポイント
同じ種類、できれば同じ個体の葉を比べると、日向と日陰の違いを観察しやすくなります。
- 外側の葉と内側の葉で厚さが違うか
- 葉の大きさや柔らかさが違うか
- 葉を光に透かしたときの透け方が違うか
- 葉柄の長さや葉の角度が違うか
- 日向側の葉ほど小さく厚くなっていないか
- 日陰側の葉ほど薄く広くなっていないか
- 同じ樹種でも樹冠上部と下部で性質が違うか
ただし、日向と日陰では光だけでなく水分や温度、風も違うため、観察だけで原因を一つに決めることはできません。同じ種類・同じ個体で場所だけを比べると、光環境の影響を考えやすくなります。
まとめ
植物の葉が日向と日陰で違う性質を持つのは、葉が成長するときの光環境に合わせて、葉厚、柵状組織、比葉面積、光合成能力、光捕集系、光防御系などを調整するためです。
日向では、厚く単位面積あたりの光合成能力が高く、強い光を安全に処理できる葉が有利です。日陰では、薄く広い葉を少ない材料でつくり、弱い光を効率よく集め、低い光条件でも炭素収支を保てる性質が有利になります。
陽葉と陰葉の違いは、同じ植物が場所ごとの光条件に合わせて葉の設計を変える「順化」の結果です。植物は移動できない代わりに、葉の形と働きを変えることで、明るさの違う環境を使い分けているのです。
参考資料
- 矢野覚士・寺島一郎「シロザ Chenopodium album L. の陽葉・陰葉の発生過程」日本植物生理学会年会要旨集
- 田中格「光前歴が落葉広葉樹の解剖学的構造と光-光合成特性に与える影響」日本生態学会大会講演要旨集
- Dependence of Photosynthetic Rates on Leaf Density Thickness in Deciduous Woody Plants Grown in Sun and Shade
- From ecophysiology to phenomics: some implications of photoprotection and shade-sun acclimation in situ for dynamics of thylakoids in vitro

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