なぜ偏光板を回すと透過光の強さはcos²θで変わるのか?

二枚の偏光板を重ねて一方を回すと、透過する光は徐々に暗くなり、二枚の軸が直交するとほとんど見えなくなります。この変化は、理想的な条件ではマリュスの法則

I = I₀ cos²θ

で表されます。

では、なぜ光の強さは角度θそのものでもcosθでもなく、cos²θで変わるのでしょうか。

結論からいうと、偏光板を通過できる電場の振幅が、入射した直線偏光の電場ベクトルを透過軸方向へ射影したE cosθになる一方、光の強さは電場振幅の二乗に比例するからです。したがって、

I ∝ E² → I = I₀ cos²θ

となります。

この記事では、マリュスの法則がどこから出てくるのかを、電場ベクトルの射影、光強度と振幅の関係、偏光板の役割という三つの段階に分けて説明します。

目次

まず偏光板は何をしているのか

光は電磁波であり、進行方向に垂直な向きに電場が振動しています。直線偏光では、その電場の振動方向が一定です。

偏光板には、ある方向の電場成分を通しやすく、それと直交する方向の成分を強く弱める性質があります。通しやすい方向を透過軸と呼びます。

したがって、偏光板を通過した後の光では、電場は基本的に透過軸方向の成分だけが残ります。

既存記事「なぜ光には偏光という向きの性質があるのか?」では、偏光板が方向選択的な吸収を使って特定の偏光成分を残すことを説明しています。本記事では、その先にある「角度を変えると光強度がどう変わるか」という法則に焦点を当てます。

電場ベクトルを透過軸方向へ分解する

入射光が直線偏光しており、その電場ベクトルの振幅をE₀とします。

偏光板の透過軸と入射偏光の向きの間の角度をθとすると、E₀は透過軸に平行な成分と垂直な成分に分解できます。

透過軸方向の成分は

E = E₀ cosθ

です。

一方、透過軸に垂直な成分は理想的な偏光板では通過できません。そのため、偏光板を通過した後に残る電場振幅はE₀ cosθになります。

ここまでは単純なベクトルの射影です。cosθが現れる理由は、電場がベクトル量だからです。

なぜ光の強さは電場振幅の二乗に比例するのか

次に重要なのが、光強度と電場振幅の関係です。

電磁波が運ぶエネルギー流は、電場と磁場の組み合わせで表されます。真空や単純な透明媒質では、時間平均した光の強さは電場振幅の二乗に比例します。

つまり、

I ∝ E²

です。

したがって、偏光板を通った後の電場振幅E = E₀ cosθを代入すると、

I ∝ (E₀ cosθ)²

となります。

入射光の強さをI₀ ∝ E₀²とすれば、

I = I₀ cos²θ

が得られます。これがマリュスの法則です。

cosではなくcos²になる理由

マリュスの法則で最も重要なのは、振幅と強度を区別することです。

偏光板によって電場振幅はcosθ倍になります。しかし、人が明るさとして感じたり、光検出器が測ったりする強度は振幅そのものではなく、その二乗に比例します。

そのため、

  • 電場振幅:E = E₀ cosθ
  • 光強度:I = I₀ cos²θ

となります。

「偏光板を45度回したから光が半分になる」という結果も、cos²45° = 1/2から説明できます。

角度ごとの透過光強度はどう変わるのか

理想的な二枚の偏光板を考え、一枚目を通った直線偏光を二枚目へ入射させます。

  • θ = 0°:cos²0° = 1なので、最大強度
  • θ = 30°:cos²30° = 3/4
  • θ = 45°:cos²45° = 1/2
  • θ = 60°:cos²60° = 1/4
  • θ = 90°:cos²90° = 0

したがって、偏光軸を少し回しただけで直線的に暗くなるわけではありません。cos²に従って非線形に減少します。

OpenStaxの偏光解説でも、二枚の偏光子の相対角度θに対して透過強度がI = I₀ cos²θに従うことがマリュスの法則として示されています。

なぜ90度で理想的には光が通らなくなるのか

一枚目の偏光板を通った光は、その透過軸方向に電場を持つ直線偏光になります。

二枚目の偏光板を90度回すと、その透過軸は一枚目の電場方向と完全に直交します。

このとき二枚目の透過軸方向への電場成分は

E = E₀ cos90° = 0

です。

そのため、理想的な偏光板なら透過光強度もゼロになります。

実際の偏光板では、完全なゼロにはならず、ごくわずかな漏れ光が残ります。これは偏光板の消光比が有限であるためです。

無偏光の光を最初の偏光板に通すと強度はどうなるのか

ここまでのマリュスの法則は、すでに直線偏光した光が偏光板へ入射する場合の式です。

では、太陽光や一般的な照明のような無偏光に近い光を最初の理想偏光板へ通すとどうなるのでしょうか。

無偏光では、電場方向が時間平均するとさまざまな方向へ均等に分布しています。

角度θに対するcos²θを0〜180°で平均すると1/2になります。そのため、理想的な偏光板では無偏光の平均強度はおよそ半分になります。

つまり、無偏光の入射強度をIuとすると、一枚目の偏光板通過後は

I₁ = Iu / 2

です。

その後、二枚目の偏光板を一枚目に対して角度θだけ回すと、

I₂ = (Iu / 2) cos²θ

となります。

「一枚目で半分、二枚目でcos²θ」は別の話

偏光の実験では、この二つを混同しやすいので注意が必要です。

無偏光から最初の偏光板へ入るときは、さまざまな偏光方向の平均を取るため、理想的には強度が1/2になります。

一方、すでに直線偏光している光を次の偏光板へ入れるときは、その二つの偏光方向の角度差に応じてcos²θで変化します。

したがって、二枚の偏光板を使う典型的な実験では、

I = (Iu / 2) cos²θ

と整理できます。

三枚目の偏光板を入れると光が再び通るのはなぜか

二枚の偏光板を90度で直交させると、理想的にはほとんど光が通りません。

ところが、その間に45度傾けた三枚目の偏光板を入れると、再び光が通ります。

これは一見不思議ですが、マリュスの法則で説明できます。

一枚目を通った光を強度I₁とすると、中間の45度偏光板で

I₂ = I₁ cos²45° = I₁ / 2

になります。

この時点で偏光方向は中間板の45度方向にそろいます。そこから最後の90度偏光板までは再び45度なので、

I₃ = I₂ cos²45° = I₁ / 4

となります。

つまり中間の偏光板は、光を単に減らすだけでなく、透過した成分の偏光方向を自分の透過軸へそろえます。そのため、最後の偏光板に対して透過可能な成分が再び生まれます。

マリュスの法則は「確率」と考えてもよいのか

古典電磁気学では、マリュスの法則は電場ベクトルの射影と強度の二乗則で説明できます。

一方、量子論では単一光子の偏光状態を考え、ある偏光方向の光子を角度θだけ傾いた偏光子へ入れると、透過する確率がcos²θになります。

多数の光子を送れば、その透過確率の平均が光強度として現れ、古典的なマリュスの法則と一致します。

したがって、同じcos²θという式が、古典論では振幅の射影とエネルギー流、量子論では偏光測定の確率として現れます。

Jonesベクトルで書くとどうなるのか

偏光をより数学的に扱う方法の一つがJonesベクトルです。

x方向に直線偏光した光を

(1, 0)

と表し、角度θの偏光板の透過軸方向を

(cosθ, sinθ)

と考えます。

入射偏光を透過軸へ射影した振幅は内積によってcosθになります。その絶対値の二乗を取るとcos²θです。

この見方では、マリュスの法則は二次元ベクトル空間における射影の強度版として非常に簡潔に表せます。

円偏光や楕円偏光でも同じ式になるのか

マリュスの法則I = I₀ cos²θは、入射光が直線偏光で、偏光板が理想的な線偏光子である場合の基本形です。

円偏光では、電場ベクトルの向きが時間とともに回転しています。理想的な線偏光子へ入れると、どの角度に偏光板を向けても時間平均した透過強度は同じになり、入射強度のおよそ半分になります。

楕円偏光では、偏光板の角度によって透過強度は変化しますが、単純なI₀ cos²θだけでは表せません。二つの直交成分の振幅と位相差を考慮する必要があります。

したがって、マリュスの法則を使うときは「入射光が直線偏光か」を確認する必要があります。

偏光板が理想的でない場合はどうなるのか

実際の偏光板は、透過軸方向の光を100%通すわけではなく、垂直方向の光も完全には遮断できません。

そのため、透過軸が直交しても強度は完全なゼロにはなりません。

偏光板の性能を表す指標の一つが消光比です。通したい偏光成分に対して、遮断したい直交成分がどれだけ残るかを表します。

高品質な偏光子ほど消光比が大きく、90度にしたときの漏れ光が少なくなります。

また、偏光板自体の吸収や表面反射もあるため、θ=0°でも透過強度が入射光と完全に同じになるとは限りません。

光の波長によってマリュスの法則は変わるのか

理想的な線偏光子なら、角度依存の基本形cos²θは波長によらず同じです。

ただし実際の偏光板では、透過率や消光比が波長によって変化することがあります。

そのため、白色光を使った実験では偏光板の角度を変えると、明るさだけでなくわずかな色味の変化が見えることもあります。

これはマリュスの法則自体が壊れているのではなく、実際の光学素子が波長ごとに異なる透過特性を持つためです。

液晶ディスプレイでマリュスの法則はどう使われるのか

液晶ディスプレイでは、偏光板と液晶層を組み合わせて光の透過量を制御します。

液晶分子の配向は電圧によって変化し、それに応じて通過する光の偏光状態も変わります。

最後の偏光板に対する偏光状態が変化すると、透過光強度が変わります。この基本には、偏光成分の射影と強度の角度依存性があります。

実際の液晶表示では複屈折や位相差なども関与するため、単純な二枚の偏光板だけではありませんが、マリュスの法則はその基礎を理解する重要な入口です。

偏光サングラスでも同じ法則が関係するのか

偏光サングラスは、水面や道路から反射して特定方向に偏りやすい光を選択的に弱めます。

反射光の偏光方向とサングラスの透過軸の角度によって、透過する電場成分が決まります。

そのため、偏光サングラスを回すと反射光の見え方が変わります。これも本質的には、透過軸方向への電場成分の射影に関係しています。

スマートフォン画面を偏光板越しに見ると暗くなるのはなぜか

多くの液晶ディスプレイから出る光は偏光しています。

そのため、偏光サングラスや別の偏光板を通して画面を見ると、画面光の偏光方向と偏光板の透過軸の角度に応じて明るさが変わります。

端末を90度回したときに画面が暗くなる場合があるのは、二つの偏光方向が直交に近づき、透過強度がcos²θに従って小さくなるためです。

マリュスの法則を実験で確かめるには

比較的簡単な実験で確認できます。

  1. 直線偏光した光源、または無偏光光源+一枚目の偏光板を用意する
  2. 二枚目の偏光板を回転できるようにする
  3. 透過光を光センサーで測る
  4. 角度θを0°から90°まで変えて強度を記録する
  5. 強度をcos²θに対してプロットする

理想条件に近ければ、測定値はcos²θに比例する曲線に沿います。

目視だけでも明暗変化は確認できますが、スマートフォンの照度センサーやフォトダイオードを使うと定量的に調べられます。

マリュスの法則と偏光の「原因」は別の問い

「なぜ光に偏光という性質があるのか」と「なぜ偏光板を回すと透過強度がcos²θで変わるのか」は別の問いです。

前者は、光が横波であり電場に向きの自由度があることや、偏光板・反射・散乱などが特定の向きを選ぶ仕組みを扱います。

後者は、すでに直線偏光している光に対して、偏光板の透過軸方向へ電場を射影し、その二乗が光強度になるという法則を扱います。

偏光そのものの基本については、関連記事「なぜ光には偏光という向きの性質があるのか?」で詳しく説明しています。

まとめ

偏光板を回すと透過光強度がcos²θで変わるのは、電場ベクトルの射影と光強度の二乗則が組み合わさるからです。

  • 偏光板は電場のうち透過軸方向の成分を通す
  • 入射直線偏光と透過軸の角度をθとすると、透過電場振幅はE = E₀ cosθになる
  • 光強度は電場振幅の二乗に比例する
  • したがってI = I₀ cos²θとなる
  • 45度では強度は1/2、90度では理想的に0になる
  • 無偏光を最初の偏光板へ通すと平均強度は約1/2になる
  • 三枚の偏光板では、中間板が偏光方向を変えるため、直交偏光板の間でも光が再び通る
  • 量子論ではcos²θは単一光子が偏光子を透過する確率として現れる

つまりマリュスの法則は、単なる実験式ではありません。偏光した光の電場を偏光板の透過軸へ射影するとcosθが現れ、その電場が運ぶエネルギーが振幅の二乗に比例するためcos²θになるのです。

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