なぜ植物の葉には葉脈ができるのか?

葉を光に透かすと、中央の太い筋から細い筋が枝分かれし、葉全体へ広がっていることがわかります。この筋が葉脈です。葉脈は単なる模様ではなく、水や養分を運び、光合成でつくられた糖を運び出し、薄い葉を支える重要な組織です。では、なぜ植物の葉には葉脈ができるのでしょうか。

結論からいうと、葉が成長するときに植物ホルモンのオーキシンが流れる経路に沿って将来の維管束になる細胞が選ばれ、その細胞列が前形成層となり、やがて木部と師部へ分化して葉全体をつなぐ輸送網になるためです。できあがった葉脈は、根から来た水を葉へ配り、葉でつくられた糖を植物体のほかの部分へ送り、葉の形を支える役割を担います。

目次

葉脈の正体は「葉の中を走る維管束」

葉脈の内部には、主に木部と師部からなる維管束があります。木部では、根から吸収された水や無機塩類が茎を通って葉へ運ばれます。師部では、葉の光合成でつくられたショ糖などの有機物が、成長中の芽、根、花、果実などへ運ばれます。

つまり葉脈は、水を葉へ届ける入口であると同時に、葉でつくられた物質を外へ運び出す出口でもあります。

葉は薄く広い器官なので、中央に一本の管があるだけでは葉の隅々まで水を届けることができません。そのため、太い主脈から側脈、さらに細い高次脈へと枝分かれする網目状の輸送系がつくられます。

葉脈は葉が完成してから後付けされるのではない

葉脈は、葉が大きくなった後で追加される配管ではありません。葉がまだ小さな葉原基として形成される段階から、葉の成長と並行して将来の葉脈の位置が決まっていきます。

若い葉の内部では、まだ見た目にはほとんど同じように見える細胞の中から、一部の細胞が将来の維管束へ向かう運命を選びます。こうした細胞は前形成層へと分化し、その後、木部や師部を構成する細胞になります。

海外の葉脈発生研究では、葉脈形成は均一に見える葉内部の細胞から前形成層細胞列が選び出される、自己組織化的で反復的な発生過程として説明されています。

葉脈の位置決めに重要なのがオーキシン

葉脈形成で重要な役割を持つのが、オーキシンという植物ホルモンです。オーキシンは植物の成長や器官形成を広く調節しますが、葉では維管束形成の位置決めにも関わります。

若い葉では、オーキシンが細胞から細胞へ一定の方向性をもって輸送されます。すると、オーキシンが通りやすい経路が次第に絞り込まれ、その経路に沿った細胞が前形成層へ分化しやすくなります。

この考え方は「オーキシン流の運河化」と呼ばれるモデルで説明されます。最初は広く流れていたオーキシンが、輸送しやすい細胞列へ集中し、その流れ自体がさらに輸送経路を強めることで、細長い葉脈のもとができます。

オーキシンの流れが乱れると葉脈パターンも乱れる

オーキシンが葉脈形成に関係することは、オーキシン輸送を妨げる実験からもわかります。

日本の植物生理学研究では、オーキシン極性輸送を阻害すると葉の維管束形成パターンが乱れ、主脈や葉縁部の維管束配置に異常が生じることが報告されています。

このことは、葉脈が単に葉の成長によって偶然できるのではなく、細胞間でオーキシンがどの方向へ運ばれるかという情報を利用して、規則的な配置をつくっていることを示します。

最初に主脈ができ、その後に細い葉脈が加わっていく

多くの双子葉植物では、葉の中央を基部から先端へ走る主脈が早い段階で形成されます。その後、主脈から側方へ側脈が伸び、さらに高次の細い葉脈が枝分かれします。

側脈同士がつながると輪のような閉じた経路ができ、網目状の葉脈になります。葉が成長して面積が広がるにつれて、より細い葉脈が追加され、葉肉組織と葉脈との距離が大きくなりすぎないように輸送網が整えられます。

葉の成長と葉脈形成が同時進行することで、葉が広がっても水や物質を葉全体へ運べる構造が保たれます。

前形成層から木部と師部が分化する

葉脈になる細胞列が決まると、その内部で木部と師部の分化が進みます。

木部の道管や仮道管は、水を効率よく通すための細長い通路をつくります。成熟した道管要素では細胞内容物が失われ、丈夫な二次細胞壁を持つ管として機能します。

一方、師部では師管要素や伴細胞などが分化し、葉でつくられた糖やアミノ酸、情報物質を植物体内へ運びます。日本の維管束発生研究でも、木部と師部は維管束幹細胞から異なる分化経路をたどりながら、隣接した輸送組織として形成されることが示されています。

葉脈はなぜ枝分かれする必要があるのか

葉の中央に一本の太い葉脈だけがあっても、その近くの細胞には水を届けられます。しかし、葉の縁や細かな葉肉細胞までの距離が遠くなると、水の移動効率が下がります。

そこで葉脈は繰り返し枝分かれし、太い脈から細い脈へ水を分配します。細い葉脈が葉肉の近くまで入り込むことで、水が維管束から葉肉細胞へ移動する距離を短くできます。

葉の水輸送研究では、葉脈の密度や配置が葉の通水能力に関係することが示されています。葉脈は、薄く広い光合成面へ水を均一に配るための分配網なのです。

葉脈から届く水は光合成と蒸散を支える

葉では気孔から二酸化炭素を取り込む一方、水蒸気が外へ失われます。これが蒸散です。

蒸散で失われる水を補うため、根から吸収された水が茎の木部を上昇し、葉脈の木部を通って葉全体へ供給されます。葉肉へ届いた水の一部は光合成に使われ、多くは最終的に気孔から水蒸気として放出されます。

日本の植物水分生理研究でも、葉を含む植物体の通水能力は、植物が適切な水分状態を保ちながら光合成を行ううえで重要だとされています。

葉脈が細かいほど水を届ける距離を短くできる

葉脈密度が高い葉では、葉肉のどこにいても比較的近くに葉脈があります。これにより、水が木部から葉肉へ移動する距離を短くできます。

被子植物の葉脈進化を扱った研究では、高い葉脈密度と適切な葉脈配置が葉の水輸送能力を高め、気孔を開いたまま光合成を続ける能力に関係していると考えられています。

葉脈は単なる輸送管ではなく、その密度や間隔まで含めて、葉がどの程度の蒸散と光合成を維持できるかに関わっています。

葉脈は糖を「葉から外へ」運ぶ経路でもある

葉は光合成で糖をつくる生産器官です。しかし、つくられた糖を葉の中だけにため続けるわけにはいきません。

糖は師部へ積み込まれ、成長中の芽、根、花、果実、貯蔵器官などへ運ばれます。若い葉自身が成長中のときには糖を受け取る側ですが、成熟して光合成能力が高まると、糖を送り出す側へ変わります。

葉脈が葉全体へ広がっていることで、各場所の葉肉細胞でつくられた光合成産物を効率よく回収し、植物体全体へ運べます。

葉脈はホルモンや情報物質の通路にもなる

維管束を流れるのは水、無機塩類、糖だけではありません。植物ホルモン、アミノ酸、RNA、ペプチドなど、植物体内の情報伝達に関わる物質も維管束を通って移動します。

そのため葉脈は、葉と根、茎、花などを結ぶ情報ネットワークとしても機能します。

葉が乾燥や病害などの環境変化を受けたとき、その影響は葉の局所だけにとどまらず、維管束を介した情報伝達によって植物体の別の部分へ伝わることがあります。

葉脈は薄い葉を機械的に支える

葉は広い面積を持つ一方、非常に薄い構造です。そのままでは自重や風、雨によって変形しやすくなります。

太い主脈や側脈には、木部の丈夫な細胞壁や支持組織が含まれています。そのため葉脈は、葉の表面を内側から支える骨組みのような役割も果たします。

葉脈の配置によって葉身全体へ力を分散できるため、薄い葉でも形を保ちながら風にしなって対応できます。葉脈には「運ぶ」と「支える」という二つの大きな機能があります。

網目状の葉脈には迂回路がある

双子葉植物に多い網状脈では、側脈や細脈が互いにつながり、閉じた輪をつくります。

この構造では、一部の細い葉脈が傷ついても、別の経路を通って水や物質を運べる可能性があります。道路網に複数のルートがあるのと似ています。

すべての葉脈が独立して行き止まりになるより、相互接続されたネットワークのほうが、広い葉面へ安定して物質を配送するうえで有利です。

単子葉植物では平行な葉脈が多いのはなぜ?

イネやササのような単子葉植物では、葉脈が基部から先端へほぼ平行に走る葉が多く見られます。一方、多くの双子葉植物では網目状の葉脈が目立ちます。

これは、葉の成長様式や形が異なるためです。細長い葉では、基部から先端方向へ長く伸びる輸送経路を並べる構造が効率的です。平行脈同士も横方向の細い脈でつながっており、完全に独立しているわけではありません。

葉脈パターンは一つの形が正解なのではなく、葉の形・成長方向・系統に応じて異なる配置が形成されます。

葉の形と葉脈パターンは互いに関係している

葉脈形成と葉身の成長は別々に進むのではありません。葉の先端や縁の成長、葉身の広がりと、オーキシンの分布・輸送は互いに影響します。

そのため、丸い葉、細長い葉、切れ込みの深い葉、複葉などでは、それぞれの形に合った葉脈パターンが形成されます。

海外の発生研究では、オーキシンが葉の形づくりと維管束パターンの両方に中心的な役割を持つことが示されています。葉の外形と内部の葉脈網は、同じ発生過程の中で協調してつくられます。

葉脈が形成されないと葉は正常に働きにくい

もし葉脈が十分に形成されなければ、葉の一部へ水を届けにくくなり、光合成や細胞の成長が制限されます。また、つくられた糖を葉から運び出すことも難しくなります。

葉脈形成に関わる遺伝子やオーキシン輸送に異常がある植物では、葉脈が途切れたり、異常に増えたり、通常とは違う配置になったりすることがあります。

葉脈は葉の付属物ではなく、葉が一枚の光合成器官として成立するために必要な基本構造です。

身近な葉で葉脈の仕組みを観察するポイント

葉脈は肉眼でも比較しやすい植物構造です。いくつかの植物を比べると、輸送網と葉形の関係が見えてきます。

  • 主脈から側脈がどの角度で枝分かれするか
  • 細い葉脈同士がつながって網目をつくるか
  • 葉の縁まで細い葉脈が達しているか
  • イネ科の葉で平行脈を横につなぐ細い脈が見えるか
  • 葉脈の太さが主脈・側脈・細脈でどう違うか
  • 葉の表側と裏側のどちらで葉脈が盛り上がって見えるか
  • 葉の形が違う種類で葉脈パターンがどう変わるか
  • 傷ついた葉で傷の周囲の葉脈がどのようにつながっているか

葉を明るい窓に透かすと細い葉脈まで見えやすくなります。植物を傷つけずに観察するだけでも、葉全体へ張り巡らされた輸送網の複雑さを確認できます。

まとめ

植物の葉に葉脈ができるのは、葉の発生中にオーキシンの輸送経路に沿って前形成層となる細胞列が選ばれ、そこから木部と師部が分化して、水・無機塩類・糖・情報物質を運ぶ連続した維管束網がつくられるためです。

できあがった葉脈は、根から来た水を葉全体へ配り、光合成産物を葉から運び出し、さらに薄い葉を機械的に支えます。主脈から側脈、細脈へ枝分かれする構造は、広い葉面のどこにある細胞にも輸送経路を近づけるための仕組みです。葉脈は葉の模様ではなく、葉を一枚の機能する器官として成立させる輸送・支持ネットワークなのです。

参考資料

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